世界の花き産業が危ない(続): 花業界再編の好機

 一昨日のブログ(3月19日)で、オランダの花き産業が危機に瀕していることを紹介した。その後、個人のインスタグラムにて、YMSの坂本陽子社長から送られてきた動画をアップした。オランダのフローラホランド市場で、値段が付かない切り花が廃棄されている映像と、農場で売れない花をすきこんでいる陰惨な動画だった。

 

 見たくもない映像だが、これがいまの世界の現実である。このまま、ごく短い期間(~5月)でコロナウイルスが駆除できないとなると、オランダを中心とした花き産業は消滅の危機に直面するだろう。花が売れるはずの最盛期(3月~5月)に、需要が縮んでしまっている。消費者に頼るしか、販売側には打つ手がないのだろうか。

 とはいえ、座して死を待つわけにもいかない。生産者から卸市場、花屋まで、花産業のメンバーは何らかの打つ手を考えるしかない。めずらしく、先日は農水相がメディアに顔を出して、「お花を買ってください!プロジェクト」を声高に宣伝してくれている。しかし、わたしたちは、自力で抜本的な業界の改革を推し進めるしかない。

 一昨日に続いて、わたしが入手できた追加情報を紹介する。国内外の生産者や花屋さんから入ってくる情報を整理して、近未来の花の産業を展望してみる。

  

(1)海外(東南アジアが厳しい)

 先日は、主に欧州とアフリカの情報をお伝えした。ところが、日本を出荷先として考えると、これとは別の風景が見えてくる。

 実は、アフリカ以上にもっと深刻なのは、東南アジアの花生産国である。マレーシア、ベトナム、タイ。とくにマレーシアとベトナムは、春彼岸のこの時期は、例年は日本に向けて菊を大量に輸出している。

 ご存知のように、コロナウイルス禍で国境が閉鎖されている。国際便の旅客機が飛べていない。アフリカ(ケニヤ、エチオピア)の欧州向けは、チャーター便が主である。切り花を貨物として運ぶ欧州路線とは違い、日本向けには、マレーシア航空とかJAL便が旅客機の胴体に切り花を積んで運んでいる。

 エアラインの減便や運航停止で、花が全く運べない状態にある。国内の生産者もたいへんだが、この二か国の困難はその比はないようだ。出荷できないため、倒産の危機に瀕している東南アジアの現地生産者からは、悲鳴の声が。そして、「欧州市場で花が門前払いされているアフリカの生産者からは、日本向けになんとか運べないだろうかと問い合わせが来ている」(輸入商社YMSの坂本社長)

  

(2)国内(鉢物生産者は直販を目指す)

 国内卸市場の切り花の価格は落ち着いてきている。一時は二束三文だった花の値段が、春彼岸に入り通常時に戻っている。在宅や自宅待機が増えて、思わぬ「ホームユース需要」が生み出されているからだ。国内の物流も立ち直っているようだ。しかし、歓送迎会のキャンセルや卒業式の中止で、パーティー需要やプレゼント需要は大きく冷え込んでいる。本格的な困難の山場は、これからやってくる。

 対照的なのは、ECでの花販売やサブスク(定期定額購入)、生協の定期購入などの好調さである。将来を考えると、店頭での販売を補う意味でも、生産者が直販(庭先販売)やECでの販売に乗り出すことになりそうだ。そうなると、生産者の直販(B2C)を何らかの形で支援できない市場は、社会的な役割を終えてしまうことになる。

 たとえば、鉢花関係でも直販は伸びている。この機会に、ホームセンターやガーデンセンターは、元気な個人の生産者に向けて、彼らが販売に利用しやすいECプラットフォームを自社内に設置すべきではないのか。あるいは、この際、花市場も中堅の切り花生産者のために、同様なプラットフォームを展開する努力をすべきである。そうでもしないと、どこかのEC企業に顧客を奪われてしまいかねない。

 

(3)花業界の再編成

 業種業態に関係なく、花業界で有力な生産者の囲い込みが始まるような気がする。あるいは、従来の取引関係を解消して、新しい形態の取引や提携がはじまりそうだ。生き残りをかけて戦う生産者に寄り添う市場と花店だけが、この危機を利することができる。何もしない(しようとしない)プレイヤーは、市場から退出することになるだろう。

 当たり前のことだが、切り花も鉢物も直販ルートが拡大する。そうなると、どうみても従来型の卸市場は不利になる。商売の形を変えないと、いまの花市場は生き残れない。オランダでも花市場は同じ苦難に直面している。

 それでは、誰が変革期のメジャープレイヤーになれるのだろうか?小売店チェーンだろうか?EC仲介業者だろうか?そして、スーパーと花店の対応はどうなるのだろう。激動期の変革のパラメータを考えてみる。なにが、花市場の変化をコントロールするだろか?

  

(4)変革期のパラメータ(変化の引き金となる要因)

 ここからは、未来予測図になる。当たるかどうかはわからない。ドラスチックに変わるだろう花業界の将来予測に使えるパラメータは、おそらくは3つだろう。①消費者ニーズ、②取引コスト、③リーダー企業。

   

 ①メインの商品と物流機能(消費者ニーズ)

 世界的に花が売れなくなった要因を冷静に分析してみる。ひとつは、花の購買動機がいまの世相(不要不急のモノ以外は後回し)にマッチしないことだ。食べることが先決だと花への需要は低迷してしまう。短期的には、これはどうしようもない。需要が回復するのを待つしかない。

 二番目は、モノと人が移動できなくなったことが原因である。そもそも花が運べなくなったのは、オランダ起点で考えると、生産地がアフリカや中南米に移動してしまったからである。物流の動線が長くなったので、ロジスティック機能が寸断されたら、花は消費者に届けられない。長期的には、国内生産に切り替えるしか解決方法はない。しかし、とくに欧州では、低価格の花が安定供給できるようになったから、ここ30年間で花の需要が大きく伸びた。これを反転することができるかどうか。

 他の商品でも同じことが起こっている。国際分業が進んだので、衣料品や機械産業でもパーツや完成品が入手できなくなった。不要不急のモノでない場合は、切り花と同様に売れないことになる。アパレルや旅行などのイベント系も、同じ扱いを受けている。花の商品特性は、ハレの日に関連したイベント(物日)と関連していることだ。それでも、欧州と比べると日本はまだましなほうで、輸入依存度がいまだ30%である。逆説的に、物日に関連した需要だからまだ救いようがある。

 オランダは、モノが運べないことと消費者が外出できなくなったために、花が買えないというダブルのパンチを受けた。そして、国際的な比較優位を喪失したことで、花を生産をしなくなった。取引仲介国に専念したことが、国としては決定的なダメージになっている。

 食料品と同じである。「花の自給率」を高めることが、産業育成には必要なのかもしれない。日本も国産花きをもっと大切にすべきではないだろうか? そして、キク、バラ、カーネーションような需要の大きな作物(メジャークロップ)に大きく依存することをやめるべきだろう。そのための販売機構が必要のように感じる。

 

 ②取引コスト

 直販ニーズがこれだけ高いのは、今回のように「外に出歩けないから」だけが理由ではない。消費者の手軽さを求めるニーズ(スムーズな買い物)に、ネット販売が向いているからだろう。そもそも衣料品店やコンビニなどでも、若者が接客を面倒くさがる傾向が指摘されている。それは、取引コストの中で買い物のフリクション費用が重視されるようになってきたことが原因でもある。

 花のサブスクやECの好調さは、素早く手軽に商品を入手できるニーズに応えられているからと考えると納得である。となると、実店舗で花を売ることのメリットを再考すべき時かもしれない。また、卸市場経由の取引形態は、花の価格が高くなると同時に、鮮度劣化を誘発している。どう見ても、ダイレクト販売が有利である。

 たとえば、物流業者や生産者の連合体が、花販売で新しい役割を担える可能性を感じる。とくに90年代の欧州では、食品スーパーが拡大する花販売の主要チャネルを担ってきた。しかし、いまやその他のプレイヤーが花販売の中心にいてもおかしくはない。たとえば、ドラッグストアやコンビニ、ファッション衣料品店。ただし、鮮度管理に課題は残るが、、、

 

 ③新興リーダー企業

 業界のリーダー企業は、従来は、花産業のマーケティングチャネルのどこかにいた。種苗会社、卸市場、花専門店、食品スーパー、ホームセンターなど。しかし、もしかすると、アマゾンなどのようなEC企業が、業界リーダーになる可能性もないわけではない。たとえば、海外から米国へ産地の花をダイレクトに届けるグループ企業が、日本に進出してくることが決まっている。

 国内産地から市場を経由せずにダイレクトに消費者に花を届けるプラットフォームECが、日本国内でも立ち上がるかもしれない。すでに専門商社(大谷商会)が中心になって動いている組織がある。これに、海外からの調達を組み合わせると、新しいプラットフォーマーが誕生する。

 また、鉢物・花壇苗では、ホームセンターが中心になって、ECプラットフォーマー企業が生まれつつある。若いベンチャー企業の中から、ダイレクトチャネルを組織できそうな会社が現れている。起業家たちが日本の花産業を変革してくれることを期待したい。