いまから17年前、誠文堂新光社から『当世ブランド物語』を出版させていただいた。ブランド論が一大ブームで、同社の月刊誌『ブレーン』に20回連載していた短編を単行本にまとめたものだった。ライターとしての出発点になった、想い出深い仕事である。そして、
このことを覚えていた「ダイヤモンド・リテイルメディア」の千田直哉編集長から、来月号(12月号)の特集で、虎屋の事例を取り上げてほしいとの依頼をいただいた。二週間前のことである。担当編集者(雪元さん)からの依頼メールは、つぎのような文面になっていた。
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法政大学 小川教授
(前略)
この度は原稿のご寄稿をお願いしたくご連絡を差し上げました。小誌12月1日号で「乗り換える~業態転換~」というテーマで特集を企画しています。イオンが呉服商からスタートしたように、小売業は手を変え品を変えながら業態転換、つまり、お客のニーズに対応するために、既存業態から別の業態への「乗り換え」を進めてきました。しかし、消費が多様化しているにも関わらず、現代はそうした大胆な業態の乗り換えはあまり見られません。
特集では「乗り換え」をテーマに、小売業の業態転換について取り上げたいと考えております。その一方で、一つの業態を今日まで何百年も維持している小売業が存在しているのも確かです。一例として、和菓子販売の虎屋に注目しています。なぜ虎屋は一見ダウントレンドにも見える和菓子の分野から乗り換えることなく、今日まで成長し続けているのか。
小川先生にはこのテーマで論じていただけないかお願いする次第です。小誌編集長の千田より、「小川先生が詳しいのでは」との助言を受けご連絡させていただきました。
ちなみにご執筆頂ける場合の原稿体裁は、2ページ計3000字前後+図表1~2点。
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「17年前の、、また再び、虎屋さんか」と一度は執筆を固辞したのだが、結局は引き受けることになった。神保町で上海ガニを食べてしまっている。この際は、千田編集長からの依頼は断りにくい。
虎屋の原稿(事例)は、連載からでは20年近くが経過している。基本的な部分は変わっていないにしても、店舗数とか商品構成、海外の事業(ニューヨークからは撤退)などにはいくつかの変化が起こっている。いちど、虎屋の広報部には連絡をしてデータを更新しなければ。
というわけで、先ほど、虎屋の広報室(社長室)に、取材願いのメールを書いたところだった。
「当時の事例で内容は充分なのですが、 店舗数や売り上げなどのデータを更新させていただけないでしょうか?このあと、秘書の内藤(光香)から、当時の原稿をファクスさせていただきます。場合によっては、電話だけで済ますことができるかもしれません。ご協力をお願いいたします。」
こうした場合、実際にインタビューしてみると、案外と大きな変化が起こっている。虎屋の事業に揺るぎはないだろう。贈答ブランドとして強みに変わりはない。ブランドの一貫性は揺るぎはなさそうだ。
原稿が書きあがったあと、読者の反応も楽しみだ。ただし、最後引き受けたこともあり、原稿の締め切りが迫っている。
ちなみに、いま、17年前の原稿を読んでいた。現在でも通用する部分があるので、この原稿は、デジタルで本ブログに転載しようかと思っている。「老舗ブランドの伝統と革新:虎屋」『当世ブランド物語』誠文堂新光社(1999年1月)