【コメント】高橋道長「京都ブランド編⑤問われる本質:高い参入障壁 価値磨く鍵」『京都新聞』2016年6月8日(3面)

 海外ツアーに出ている間に、『京都新聞』に小川のコメントが掲載されていた。京都新聞の高橋道長記者が、5月にわざわざ市ヶ谷の研究室に寄ってくださった。「京都ブランドが強いのは、歴史に裏打ちされた伝統産業との技術蓄積にある」という主張を新聞記事で引用してくれている。

 

 「観光サバイバル 地方創生への助走」『京都新聞』2016年6月8日号

 

 京都ブランド編(⑤問われる本質)「高い参入障壁 価値を磨く鍵」

 

 「関西のビール麦栽培発祥の地の碑、これは見ものですよ」。東京都新宿区で今年2月に開かれた京都検定講演会では、京都市民も知らないような歴史話が次々と繰り出されていた。京都商工会議所が開き、毎回満員に近い盛況ぶりをみせる。この日のテーマは西京区大原野一帯。老若男女約100人が熱心にメモを取りながら聴き入っている。

 京都検定受験者のうち、毎年15%程度を首都圏の住民が占める。講師の塩原直美さん(45)は首都圏での京都人気を「東京の人は京都にねたみもあるけど、技術や歴史、文化の蓄積で京都にはかなわないと分かっている。だからこそか関わりたいと思わせる力があるのではないか」と分析する。

 塩原さんも東京都出身。難関の京都検定1級に合格し、京都とのつながりを探して全都道府県を巡ったほどの京都ファンだ。「私より詳しい参加者も多い。みなさん京都への思いを共感しに来ているんです」

 

 そこまで人を引きつける京都ブランドの源泉はどこにあるのか。「そもそも京都のイメージは外部から押しつけられ、固定化してきた」と京都府立大の野田浩資准教授(環境社会学)は指摘する。

 野田准教授によると、京都は明治期まで「産業都市」の印象が強かったが、徐々に「美しき古都」のイメージに置き換わってきたという。要因の一つは谷崎潤一郎や川端康成らの文学作品。その後の「アンノン族」に代表される1970年代の女性の旅行ブームなど、日本文化を見直す価値観の変化も「京都=古都」のイメージを強固なものにした。関東大震災や第二次世界大戦、高度経済成長など未来的な東京が大きな変化を迎えるたびに、伝統的な京都が注目をされる傾向もみられるという。

 

 そんな京都イメージがブランドにまで高められた要因を、法政大学経営大学院の小川孔輔教授(マーケティング論)は、「産業だ」とする。京都はかつて王朝があり、老舗や伝統工芸の技術を生かした先端企業が継続している点でフランスのパリと似ていると指摘。「製品などを通じて街のブランドを高める『レバレッジ(てこ)効果』と、街のブランドを生かして商売をする『アンブレラ(傘)効果』の両方が強い点が他の観光都市とは大きく違う」と語る。

 さらにパリと同様に、京都もギルド(職業別組合)社会で「簡単に参入させず、競争を抑えることで技術を高め、最高のもてなしを守ってきた」と強調。「京都ブランドを守るために重要なのは、参入障壁を高くし、規制を強めること。不便になることこそが京都の価値だ」と断言する。

 

 この京都ブランドを今後、どう磨きをかけていくのか。野田准教授も、「京都が商品化、観光化されすぎると価値が低下する」と語るように、不便さや規制など一見、時代に逆行してみえる閉鎖性こそがキーワードのようだ。(高橋長道)

 =「京都ブランド編」おわり