【書籍紹介】 「シリーズ・いま日本の農を問う(3)」(2015)」『有機農業が開く可能性:アジア、アメリカ、ヨーロッパ』ミネルヴァ書房(2015年)

 友人・知人たちが、このシリーズに寄稿している。日本の農業、とりわけ有機農業を中心に、戦後の農政と民間での農業への取り組みを紹介したシリーズである。昨年12月の段階で、9册が刊行されている。その中から、最初の1冊を取り上げてみる。二冊目(6と9)以降は、別の機会に感想を述べる。

 

 シリーズ3 中島紀一・大山利男・石井圭一・金気興(2015)『有機農業がひらく可能性』ミネルヴァ書房

 

 この中では、中島紀一氏(茨城大学名誉教授)が書いた第一章「日本の有機農業、農と土の復権へ」が断然優れている。日本における有機農業の歴史と現在の問題点を見事に描いている。また、資源投入型の近代農業が大いに行き詰っていることが、有機農業の未来の隆盛を感じさせる。その論理が恬淡と述べられている。2007年の有機農業基本法の制定で、日本の有機農業の地位は確固なものになった。農政が近代農法から有機農業に本格的に転換を図るのは、いったいどのタイミングなのか。

 

 アメリカの有機農業を紹介した大山利男氏の論考(第二章「アメリカの有機農業)は、2007年に米国のアースバウンド社(オーガニックサラダの加工メーカー)やホールフーズを取材した経験を持ち、しばしば米国のSMを視察しているわたしの立場からすると、やや物足りない内容だ。現実は、すでに米国のオーガニックは、コストコやウォルマートに覇権が移っている。

 しかも、米国の近代農業は、ある意味ではGMOや農薬散布の過剰散布、水不足の問題に対処しなければならない。近代農法を採用している農家は、収益性という点で問題を抱えたままだ。儲かっているのは、農業メジャーと農薬メーカー、そして食品小売業だけだ。

 

 石井氏と金氏の論考は、フランスの特定方式の農業と韓国の有機農業を取り上げている。事例が特異で、新しく学ぶという点では、あまり参考にならなかった。

 

 以上、簡単な感想である。中島氏の論考があまりに素晴らしすぎて、他の論文がかすんでしまっている。