残念ながら、本書を読了したが、デジタル技術としてのAIと、小売りのオペレーションの関係がよく理解できなかった。うっすらとわかったことは、AIが小売業の中で、①オペレーション(販促管理、店舗運営、発注業務など)の無駄が排除できて、②企業文化を変えることで働き方改革(生産性の向上)を実現し、③従業員の意思決定を支援したり改善することに資する。こんな道筋を語っているように思う。わたし自身の読後感は、あまり自信をもって語れない。
第1章「生存戦略としてのリテイルDX」の議論では、AIの貢献として、主として①オペレーションの効率化が実現できることが書かれている。そのように理解できた。第2章「新しいテクノロジーとの向き合い方」では、ロジャーズの理論によるAI技術の普及段階の解釈である。ここには、取り立てて新味のある視点はない。
第3章「生成AI活用の道筋」では、②AIの企業文化チェンジへの貢献が論じられている。基本は、AI基盤モデルのシステム的な活用についての章である。基盤モデルの「忘却(データの追加と入替・破棄)」と「汚染防止(モデルのチューニング)」を、小売業(この場合はトライアル)の業務オペレーションにどのように組み込むかの枠組みを説明している。
第4章「ナッジ(教唆)の重要性」では、AIが提供する新規アイデアをどのように活用すべきかについて述べているが、わたしには説明不足でクリアにはわからなかった。この章は、人間と機械(AI)の対話について解説されているようにも理解できる。
著者の永田さんは、(1)大手小売業の経営者でありながら、(2)リテイルAIの専門家でもある。本書を(1)の立場から本書を購入した人は、用語と概念の説明が難しくてほとんどついていけないだろう。本の書き手としては、やや内容の説明が不親切ではないかと思う。
わたしは、かつて統計学や計量経済学を学んだので、うっすらと内容が把握できる。しかし、小売業の実務担当者には、ほぼ絶望的な内容ではないだろうか。本書の真のターゲットは、(2)リテイルAIの専門家で、小売のDX担当者だと説明してあげた方がよいように思う。
わたしは、「ダイヤモンド・チェーンストア」の広告を見て購入した。だから、小売業のシニア・マネージャーや社員が購入者だとしたら、すこしばかり可哀そうになる。
そこで、著者には、思い切って本書を書き直すことを推奨したい。内容が決して悪いわけではない。全般的に説明不足が目立つだけだからだ。説明不足の専門用語がやや多くて、コンセプトの説明が不十分なのだ。
本書をターゲットではない読者が購入してしまうと、著者は才能のある経営者であることは証明済みである。それゆえに、優良企業であるトライアルの評判に傷がつくことになりかねない。買い直すことはそれほど難しくはないと思う。永田さんに一考をお願いしたい。
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