Entry: main  << >>
【特別寄稿】 米国西海岸、フードビジネス最新事情(『食品商業』への紀行文)
 「農と食のイノベーション」のシリーズで連載を担当している『食品商業』に、カラー3ページで紀行文を掲載しました(2020年2月号)。10月初旬に米国カリフォルニア州のフードビジネスを視察しました。その紹介文です。サンフランシスコとロサンゼルスのレストランと食品スーパーを20軒ほど食べ歩きました。「飽食の旅」の記録でもあります。
        
「特別寄稿:米国西海岸、フードビジネス最新事業」
『食品商業』(2020年2月号)
 文・小川孔輔(法政大学経営大学院・教授)           
   
 <35年前の米国人の舌>
 2019年10月上旬、5年ぶりで米国西海岸の2つの都市、サンフランシスコとロサンゼルスを訪問しました。滞在中の5日間(2日〜6日)で、約20店舗を視察しました。視察先としては、食品スーパーやコンビニエンスストア、ファストフード店やカジュアル系レストランなど、ほとんどの食関連業態をカバーしました。
 視察の目的は、米国のフードビジネスで起こっている最新の動向を知るためです。視察先としては、新興のナチュラル系の飲食チェーンを重点的に選びました。「ファストカジュアルレストラン」と呼ばれるサラダをメニューの中心に据えたレストランチェーンです。
 筆者は約35年前に、サンフランシスコの郊外にあるカリフォルニア大学バークレイ校に、客員研究員として滞在していました。マクドナルド全盛期の80年代、米国西海岸で2年間暮らした当時を振り返ってみると、健康長寿の国から来た若い日本人研究者の目には、米国人の食生活は、つぎのように映っていました。
    
(1)エネルギー補給源としての食
 街のレストランに入ると、太った米国人が500g〜800gのステーキをぺろりと平らげていました。マクドナルドの店では、子供たちが食べ切れないほどのフレンチフライを抱えて座っていました。大人も子供も、まるでビッグサイズの自動車に安価なガソリンを補給するごとく、エネルギーの塊(=食べ物)を巨体に注入しているように見えました。
(2)いつでも同じものを食べ続ける
 基本的に、米国人は年中同じものを食べているように見えました。パンにチーズに肉(牛豚鳥)の生活ですから、そのように感じたのかもしれません。農業部門は周年安定供給できる栽培技術を磨くことで、食品スーパーやファストフードレストランの調達ニーズに応えていました。季節によって主食や副菜で使用される食材が大きく変わるということはなかったとの印象でした。
(3)ジャンキーでも安価な食材が優位
 当時でも金持ちとそうではない人たちの間の所得格差は大きかったように思います。結果として、ファストフード店や食品スーパーは、価格を重視した品揃えを採用していました、ウォルマートとマクドナルドの繁栄はその象徴でした。食材調達や物流、加工技術は、グローバル最適調達が唯一の基本戦略でした。それ以外の選択肢は考えられない世界でした。
  
 <リーマンショックを境に、米国人の味覚が変わった?>
 米国のフードビジネスに変化をもたらしたのは、2008年のリーマンショックだったように思います。のちにアマゾンに買収されるホールフーズ・マーケットが、このころ全盛期を迎えています。また、かつてマクドナルドの子会社だった健康志向のファストフード店「チポトレ」(Chipotle)が成長を加速させはじめました。ホールフーズやチポトレが米国人の富裕層に与えた影響は、(1)〜(3)で述べた食に対するアメリカ人の態度を根本から変えるきっかけを与えたことです。
  
(1) Visual:「エネルギーとしての食」から「美しさを重視する食」へ
ホールフーズの売り場に陳列されている色鮮やかな野菜は、米国人に目で見て食べる楽しみの大切さを教えました。米国人が右脳で食べるきっかけを与えました。
(2) Seasonal:「いつでも食べられる」から「今美味しいもの」へ
両社が提供する食材やメニューは、食べ物には「旬」(シーズン)があり、一番おいしい時期があることを伝えています。
(3) Healthy :「Junk food」から「Vegetables」へ
安くてジャンキーな食べ物より、肥満を防いで健康を維持するために、オーガニック野菜を食べることを推奨しました。
 上記の3つに加えて、2010年代を通して米国人の間でも環境意識が高まりだしました。
(4) Last 100 miles:「グローバル最適調達」から「地産地消」へ
 長距離輸送(グローバル最適調達)による環境負荷に配慮して、食材はなるべき近隣の農家から調達すること。調達元のスーパーやレストランから、100マイル(約160)以内をひとつの配送エリアと考える。さらに言えば、チェーンスト理論の常識だったCK(セントラルキッチン方式)をやめて、食材は店内で加工すること優先させる。
  
 サンフランシスコ・ベイエリア(湾岸地域)は、食文化に対して感度が高いエリート層が住んでいる地域です。同様に、ロスアンゼルスのビーチ付近には、かつてはハリウッドのセレブたちが、いまはIT企業の経営幹部やマネージャーたちが移り住んできています。
 マリナデルレイやベニス地区には、米国の食文化の変貌を体現する独立レストランやフードチェーンが、雨後のタケノコのように出現していました。以下では、サンフランシスコとロサンゼルスで取材した代表的な6社を紹介することにします。
 ちなみに、デストロイヤー(事例1)とエルワン(追記)は、クリエイティブ・ディレクターの八木保さん(ロスアンゼルス在住)に、その他の5店舗は、サンフランシスコ在住のフードビジネスコンサルタント野口桂子さんに現地を案内していただきました。
  
 <目で食べる朝食:和テイストの影響> 
【事例1】Destroyer(http://destroyer.la)
 カリフォルニアのナチュラル系レストランは、夕方までに閉じてしまう店が多い。代表例が、オーガニック・レストランの「デストロイヤー」(平日8:00 am - 5:00 pm、土日9:00 am - 3:00 pm)。米国在住ながら、京都の清水寺や京丹後の老舗旅館の再生などを手掛けている八木保さんの推薦で、早朝にベニス地区の工業地帯にあるレストランで朝食をとりました。第一印象は、「店舗のデザインもプレートも食事も、なにもかもが美しい!」。容器の形状や色合い、そして盛り付けの仕方も食べ方も、まさに視覚と味覚と嗅覚を総動員して食べる体験型の食事です。
 インスタグラムで紹介されている写真を是非ともご覧ください(https://www.instagram.com/destroyer.la/)。容器や盛り付けは、和テイストです。日本の食文化の影響が明らか。スティーブ・ジョブズと仕事をした唯一の日本人(八木保さん)が熱狂的に支持している理由がわかります。オープンカウンターで、八木さん推奨の色鮮やかな美しいサラダを頼んでみました(写真1)。
  
【事例2】Lemonade(https://www.lemonadela.com)
 南カリフォルニアから来たファストカジュアルレストランのチェーン。店内はトロピカルな装飾で明るい雰囲気(写真2)。店名からわかるように、各種のレモネードが特徴。注文方式のサンドイッチがメインで、サンフランシスコ上陸当初は人気があった。ただし、ベイエリアでは進出前からサラダ専門店(Mixtなど)が存在していたので、ビジネスがやや苦戦気味。
 もうひとつの苦戦の理由は、提供方法が注文してから作るというスタイルではないこと。カフェテリア方式のカジュアルレストランで、惣菜風サラダやサンドイッチ、煮込み料理などのアントレ商品からデザートまで幅広い品揃え。扱う商品が多すぎて強みがなにか分かりにくいのかもしれない。
     
 <健康と環境を考える:地産地消のビジネスモデル>
【事例3】Mixt(http://www.mixt.com)
 デストロイヤーと同じで、朝10時開店で15時には閉店する(営業時間は店によってばらつきがある)。ランチビジネス主体のサラダ専門店チェーン。ロケーションによってはディナー営業も行っている。IT系の起業家が、2006年にサンフランシスコで創業。ターゲットも金融街のオフィスで働く人がメインで、ベイエリアを中心に南カリフォルニアやアリゾナ、テキサスにも進出している。サンフランシスコ近辺で店舗を多く展開。商品的には、Sweetgreenと似ているが、ビジネスの開始はこちらの方が早い。
 現在21店舗。食材はローカル調達が基本で、各店舗に食材を供給する農家数は100軒前後(場所によって数に違いがある)。離職率が低く、店長はスタッフから昇進させることが多い。廃棄物の99パーセントをリサイクルに回している(写真3)。
  
【事例4】Sweetgreen(https://www.sweetgreen.com)
 東京の神楽坂にあるパワーサラダ専門店「high-five salad」(水野裕嗣社長)のモデルとなったサラダチェーン。東海岸から西海岸のサンフランシスコに進出したばかりで、店内には長い列ができていた。サブウェイ方式で、最初にトッピングとドレッシングを自分で選ぶか、出来合いのメニューを注文する。1人1分半〜2分でサラダができるので、並び始めてからの待ち時間は10分程度。
 サラダの値段は、12〜15ドル。他のチェーンもほぼこの価格帯に入る。ローカル調達で、黒板に農家のリストが掲示されている。従業員が楽しそうに、ただし、こぎれいな格好で働いている。ワーカーの清潔度で商品の質が推測できる。今回、視察で回った専門店の中では、この店のサラダが一番美味しかった。ドレッシングの美味しさと具材の鮮度、野菜の品質が理由のように思う。季節のメニューも提供している。2007年創業でいまや老舗サラダチェーン(写真4)。
  
 <テイクアウト専門店:店舗運営の効率化と簡便性>
【事例5】Proper Food(https://properfood.com)
 訪問したチェーンの中では、運営がもっともユニークな店舗。セントラルキッチン方式で、サラダやサンドイッチを店頭に並べる「カセット方式」のテイクアウト専門店(写真5)。店舗レイアウトは完全に標準化されている。商品の値段は、分権化されたオペレーションの専門店より10%ほど安い。10ドルから14ドル程度。賞味期限切れの商品はフードバンクに寄付している。
 基本はワンオペレーション。混雑時、場合によっては、店員は二人から三人に増員。サンドイッチのクオリティは高そう。つい最近、IT起業家として成功したご夫婦(Howard & Dana Bloom)が新規事業として始めたビジネス。現在15店舗(サンフランシスコ11店舗、ニューヨーク4店舗)。
 
【事例6】Urban Remedy(https://urbanremedy.com/)
 Ms. Neka Pasqualeが始めたサプリメントドリンクビジネス。美容と健康のために、薬のようにドリンクと食事を摂取する。ヒーリングフードとして、新鮮なオーガニック加工食品とドリンクを提供している。
 店舗の内装は、清潔感を与える白を基調としている。パッケージはクリアタイプに帯。ジュースも中身の色が見えるように工夫がなされている。パッケージが特徴的で、店舗デザインがおしゃれ(写真6)。女優でモデルのKate Upton(ケイト・ウプトン)のブランドは、アマゾンGOやホールフーズにもコーナー展開されている。ビーガン商品が主体。ここも店舗運営はワンオペ。
 
 <まとめ:農業、環境、働き方改革>
 図表2では、Visual(視覚)、Seasonal(旬)、Healthy(健康)、Last 100 miles(地産地消)の4つの切り口から、6つの事例を整理している。大なり小なり、各事例はすべての要素を備えてはいますが、とくに特徴的なポイントを〇印で表しています。
  
 <<この付近に、図表 レストランチェーンの特徴>>
 
 最後に、今回の視察で米国のフードビジネスについて感じたことを、三点ほど整理しておきたいと思います。
(1) 農業と食品産業の間で共進化が加速している
 食品産業の最先端で起こっているトレンド(1〜4)の基底にあるのは、美容と健康、そして環境への配慮です。ローカルで収穫した新鮮な野菜をできるだけ短い距離を運ぶことが優位になりつつあります。大規模農業が主流だった米国でも、野菜の栽培に関していえば、CSA(コミュニティ支援型農業)が主流になりつつあります。ファーマーズマーケットの隆盛がそれを物語っています。農法にも変化があります。有機栽培は当然のこととして、不耕起農法(土壌内の微生物の活用のために土を掘り起こさない)が普及しています。それは、農地を自然の形で保全するためです。
 
(2) フードロス削減と働きやすい職場
 米国のフードビジネスでは、効率性を追求するあまり、従業員に対する福利厚生や職場環境の整備について配慮することが少なかったように思います。ところが最近10年ほどで誕生した新興チェーンを見ていると、働きやすい職場環境を保全することに経営者が腐心していることがうかがえます。また、食品ロスを減らすために輸送や加工の仕方に工夫を凝らす一方で、廃棄されそうな食材はフードバンクに寄付する動きが見られます。SDGsが社会的な課題解決の優先事項として定着します。食品産業の動きはその最先端を走っているおうに見えました。
 
(3) 不思議な繁栄は続くのか?
 5年ぶりに米国西海岸を再訪しましたが、米国は不思議な繁栄の真っただ中にありました。サンフランシスコの地価高騰は半端ではありません。5年で倍近くの値上がりです。そのため、ホームレスではありませんが、車中生活者(家が借りられないので自動車の中で暮らす人々)が増えています。おそらくそうした人々の食事は、筆者がレポートで報告したものとは違っているのかもしれません。ただし、ロサンゼルスのプレミアムには、マクドナルドもKFCも見当たりませんでした。明らかに食に対するトレンドは変化しています。
 
 <追記:100%オーガニックスーパー:エルワン>
 レポートでは、レストランを中心に説明しましたが、食品スーパーにも大きな変化が起こっています。典型的な新興勢力の代表選手が、ロサンゼルスの「Erehwon」(エルワン)です(写真7)。まだ4店舗ですが、この店は完全なオーガニックスーパーで、有機栽培の野菜が3割程度のホールフーズの商品とは一線を画しています。加工食品や総菜まですべてオーガニックです。また、野菜と惣菜のビジュアル・プレゼンテーションのすばらしさには度肝を抜かれました。イオングループはビオセボンではなく、エルワンと提携すべきと感じた次第です。
 図表2 カリフォルニアのカジュアルレストラン(特徴) 
| Kosuke Ogawa | 09:48 | - | - | pookmark |

Calendar

   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
<< April 2020 >>

Profile

Recommend

Recommend

Recommend

Recommend

Recommend

「値づけ」の思考法
「値づけ」の思考法 (JUGEMレビュー »)
小川 孔輔
値づけについて、豊富な事例を収録。

Recommend

マネジメント・テキスト マーケティング入門
マネジメント・テキスト マーケティング入門 (JUGEMレビュー »)
小川 孔輔
日本でいちばん分厚いマーケティングのテキスト(全800頁)。事例集やマーケティング辞典としても使用可能。

Search

Entry

Category

Link

Archives

Feed

Others

無料ブログ作成サービス JUGEM

Mobile

qrcode