【書評】 藤井聡 (2015)『超インフラ論 地方が甦る「四大交流圏」構想』 PHP新書(★★★★)

 『新潮45』(5月号)では、筆者のマック批判が藤井氏の「大阪都構想批判」でかすんでしまった。本書を読んではじめて藤井氏が経済学者だと知った。アベノミックスの「第2の矢」(財政政策=公共事業)を積極的に活用すべきで、とりわけ整備新幹線にお金をつぎ込むべきとの説を述べたものである。



 総論としては正しいと思うのだが、学者が書いたものとしては、骨太すぎて細かな抜けが多いような気がする。星が4つなのは、論理展開がやや雑だからである。ただし、地方向けの公共投資が必要であるという総論は、大賛成だ。正しいと考える。
 新書版ということもあり、全体はかなりシンプルである。第一部「超インフラ論 総論」で、公共投資必要論を述べたあとで、第二部「超インフラ論 具体論」では、主として新幹線へ投資することで、東京一極集中が解消できると主張している。
 江戸時代に存在していた商都=「大大阪経済圏」を復活させるための、橋下大阪都構想に対する代替案の提示と理解した。一定の説得力はある。
 (1)賛成できる点、(2)疑問点、(3)抜け落ちている点の3つに分けて、簡単にコメントする(リスト)。

(1)賛成できる点:
 ・現在の地方疲弊の一つの要因が「インフラ投資不足」にあると述べていること。
 ・プライマリーバランス(均衡財政)を重視するあまり、財政出動に消極的な経済政策はまちがっているという主張。
 ・東京一極集中は災害リスクが高く、リスク分散のための具体的な施策が地方へのインフラ投資であること。
 ・「既得権益」に対するメディア批判に対する批判(「沈黙の螺旋」への言及)。
 ・地方を救うためにLRT(ライトレールトランジット)を敷設すること=路面電車の復活(昔のように!東京にもほしい!笑)

(2)やや疑問を感じる主張:
 ・日本がインフラ後進国だとするデータの提示の仕方
   日本の都市交通は電車が主体だから、道路延長距離などの統計データは地方都市に限定すべき。
 ・「四大交流圏」形成構想は、全体プランとしては構想がやや粗すぎ
   大大阪圏と九州圏はよいとしても、日本海側(北陸・東北)はどんなものか?
   わたしなら、もっと小さな「経済自給圏」(スマートテロワール)を想定したい 
 ・ソフトについても言及はしているが、人間の生活する姿が想定できない
   公共政策が中心なので致し方がないが、製造業的な視点が中心(第二次産業主体)であること。
   実際には、商業と農業がこの国の産業の中心にならないと、地方の生活は豊かにならないのではないか。

(3)政策提言として抜け落ちている視点:
  ・(2)の最後で述べたように、地方を論じるときに必要な「1次産業」と「3次産業」の視点が欠けている。
   「食と農」の問題を解決しないと、地方は復活しない。つまりは、、、、
   インフラ投資は必要だが、それだけでは耕作放棄地とシャッター道りになってしまった地方再生の芽はない。
  ・自由貿易批判(TPP)の議論はあるが、国際貿易の抑制と国内産業の復活の関係を論じることが不可欠。
  ・地方経済における雇用の問題をもう少し論じてほしい気がする。      
    
 <評価>
 インフラ投資を通して、地方に新幹線交通網を拡大していく「新国土強靭化計画」に賛成する。地方再生といいながら、何ら具体的な施策が示されていない中で、藤井氏の提言は耳を傾ける価値がある。そして、財政的な議論は、ほぼその通りだと考える。
 最後に、藤井氏に対して、またぞろメディアからのバッシングが始まることを懸念する。敢然と戦に挑んでほしい。