「とことんオーガニックシンポジウム」(24日~25日)の最後のセッションは、徳江さんの司会による「福島屋モデル」の強さの秘密を明らかにするパネルだった。パネラーとして壇上にあがった生産者(副士さん)と地方食品スーパー(山口さん)の代表は、それぞれの立場から福島屋の商売を語ってくれた。
わたしは研究者として、①顧客の都合、②従業員の立場、③供給業者との関係性から、その強さを説明した。発言時間がわずか6分間だったので、ここでも自分が話したことを忘れないように、メモを文章にしておく。福島屋さんの強さは、標準的なチェーンストアの課題でもある。
『日経ビジネス』の最新号で、「イオンの挫折」(GMSの終焉)が取り上げられている。トップバリュが売れていない。イオンやヨーカ堂が不調である。裏を返せば、以下に述べるような理屈から、福島屋やヤオコーのような地方スーパーが、世の中から支持を集め始めているからである。
①顧客の都合
戦後すぐのモノがなかった時代、日本人の憧れの対象は米国人の生活だった。広い家、自動車、映画、ショッピングセンター、そして、コークにマクドナルド、ギャップ。しかし、豊かになってしまった今の日本人に、それらは決して素晴らしいものには見えない。
安いけれど、画一的な商品やサービスはいらない。元東京大学経済学部教授の片平秀貴さん(わたしの兄弟子)は、学会発表で、「日本人の約30%しか価格に敏感に反応しない」という研究結果を発表した。10数年前のことである。この結果はふた通りに解釈できる。
ひとつは、米ウォルマートのように本格的なディスカウンターが日本で成立しない証拠になる。日本人の多くは、実際には極度の安売りにはつられないからだ。
ふたつめは、値段を下げれば30%の人は店舗を移動するので、売上は3割は上がる。だから、値引きはそれなりに効果があった(ように見えた)。その証拠でもある。しかし、利益を削って売り上げを増やしても、隣りの店が値引きをすると客をまた奪い取られる。結局は、値段を安くしても長期的には何の効果もなくなる。
結論は、従って、今の日本では特に、安売りは無効なマーケティング施策であることがわかる。それどころか、安さを実現するために、全国どこへ行っても同じ商品、同じブランド、画一的なサービスは消費者からは飽きられてしまった。イオンやヨーカ堂などのGMSビジネスが終焉を迎えているのは、そのためである。
福島屋が顧客から支持されているのは、だから価格要因ではない。値段などは安くなくてよい。そうではなくて、産地や食材の中身など、顧客は情報を欲している。美味しいものを食べたいのだ。だから、お金を払ってでも顧客が参加する「講座」が有効に機能している。
②従業員の立場
標準的なチェーンストアで働くことは、あまり楽しくなさそうだ。それが証拠に、わたしのゼミの学生は、ここ20年間で、GMSのイオンやヨーカ堂に就職した学生が皆無である。広く小売業というカテゴリーでも、CVS(なぜか?ローソンが多い)や百貨店(なぜか?伊勢丹が人気だ)やユニクロ(当然そうだろう)に就職した学生が数人いる程度だ。
おそらくチェーン小売り業が不人気なのは、仕事が「創造的」に見えないからである。実際は工夫の余地があるところもあるのだが、学生にはそう見えてはいない。アルバイトで、小売サービス業で働いた経験から、学生たちにはその大変さだけが記憶に残ってしまう。つまり、小売りの仕事が「作業」になっているからだろうと思う。
ここを脱していかないと、小売りチェーンは優秀な従業員を獲得できない。福島屋さんの仕事は、産地との連携や店頭での顧客とのふれあい(会話)がある。チェーンストアでは、セルフサービスが主張されるから、お客さんと会話などしてはいけないと教えらえる。効率が悪くなるからだと。
それでは、仕事が楽しくない。ヤオコーや福島屋では、従業員はそのようには教えられない。店頭で、お客さんとどんどん会話しなさい。そのほうが、売上も増えるのだ。
③供給業者との関係性
チェーンストアは、サプライヤー(農業生産者)からは、安価に大量に安定的に良品を調達するように教えられる。でも、そうなると、商品についている産地情報やこだわりはかえって邪魔になる。均質な商材が良いとなる価値観は、確実で効率的だが、同質で面白みのないMDをもたらす。
いまのチェーンストアの最大の問題は、ここにある。まるで経済学の理論が教えるように、商品を調達するのだ。安定的な品質の商品を大量に安くでは、たとえば、地方に眠っている少量の商品は棚に並ばない。どこでも手に入る商品しか並ばない店は、魅力があるはずもない。(止め)
*郡山シティマラソンを走ってから、この項はきちんと書きます!お楽しみに。