大学教員になって41年。他大学ではじめて講義を受け持つことになりました。教えるのは、娘の母校、京都女子大の社会学部です。担当科目は「特講Ⅱ」。春学期の2単位90分授業で、金曜日の3時限目。京都は日帰りもできますが、金曜の朝にゆっくり東京を出て、その日は京都泊にします。
嵐山は、京都駅から約15分。娘の家は、嵐山の駅から歩いて5分のところにあります。家の前はちょっとした路地になっていて、閑静な住宅街の一画です。ちいさな車庫もついているので、車での来訪も可能です。
娘のともみが嵐山に中古の小さな家を購入したのが、一昨年の10月。自らの手で図面を描いて、持ち主の施工業者さんに依頼して改装工事を行いました。かなり旧い物件(>築20年)だったのですが、リビルトして新築と見まがうばかりのおしゃれな町家に仕上がりました。急峻な階段を昇った2階には、8畳の客室があります。週末は、わたしがそこに寝泊まりすることになります。
来週は、かみさんと京都に行きます。娘の行きつけの飲み屋さん(一駒さん)が閉店することになったからです。女将さんが80歳をすぎて、仕事が続けられなくなったからです。素敵な飲み屋さんが消えてしまうのはもったいないですが、致し方がありません。
そのついでに、京都女子大に寄って教室などを見てこようと思っています。なにせ娘の入学式から20年、あの場所からは遠ざかっています。何かの因縁です。このチャンスも、わたしが計画的に引き寄せてきたイベントでした。
そもそも他大学での授業を引き受けないと決めたのは、法政で助教授に就任した27歳のときでした。当時のわたしは、「将来を嘱望される若手」だったのです(笑)。他大学の教授連から、「自校で講義を受け持ってもらえないか」との依頼がしばしば来ていました。将来は、その大学に移籍する可能性を打診してのことだと、なんとはなしにわかっていました。
でも、講義依頼に対しては、すべてお断りしました。生意気な若者だと思われたでしょう。欲のないひとだと思われたかもしれません。しかし、即座に依頼を蹴ったのは、それなりの理由がありました。
わたしは、原理主義者です。いちど決めたら簡単にルールを覆すことはありません。その原則(ルール)とは、「法政大学からお金をいただいている手前、自分の時間は法政の学生のために使うべき」と考えていたからです。たくさんの悪い例を見ていました。以下で具体的に説明します。
語学(英語やフランス語)の先生たちが典型的でした。彼らは、本務校(法政)でもたくさんの授業を担当しています。しかし、担当はせいぜい6~8コマ程度。本務校での授業は、うまく回せば二日間でこなせます。それ以外は、他大学で出稼ぎをしていました。いまはどうかはわかりませんが、わたしが知る限り、一週間のうち2~3日、他大学での講義の方が多いという教員もいたようです。
そんなアルバイト的な仕事はやりたくない。その分を自らの研究と自校の教育に充てたいと考えていました。とりわけ学部と大学院の演習指導に時間を投入したかったのです。他大学で講義を引き受けなかったのはそのためです。大学がわたしたち専任教員に対して支払っている「内部時間コスト」はかなり高額です。時間給で1万円は下回らないでしょう。
わたしたち教員は、だからこそそれに報いる義務があります。他大学で教える場合は、単なるアルバイトへの支払いと同じ水準になるのです。もったいないとは思いました。でも、それは教員個人の自由裁量に任されているのです。経営的にも、実はとても効率が悪いのです。
もうひとつは、愛校心の問題もありました。法政に就職して早期に二年間、米国の大学に留学する機会をいただきました。なので、端から他大学に移籍することは考えていなかったのです。移籍する必要性がないので、あえて他大学の授業を引き受けるメリットもなかったとも言えます。これは、やや利己的な理由になりますね。
そんなわけで、これまでは一度も他大学で教えてこなかったわけです。しかし、この春で状況が変化します。わたしは3月31日をもって専任教員から特任教授に身分が変更になります。「年季が明ける」ことになるわけです。そこで、長年の原則を変更することにしました。ルール変更で、他大学で教えてみることにしたのです。
当然のことですが、教えるならば「京都」ですよね。しかも、どうせならば、憧れの「女子大教員」ではないでしょうか。というわけで、「京都」×「女子大」=「京都女子大」を目標にして、講師と科目を探していました。
その結果、運よくたどり着いたのが、たまたま一昨年、法政大学のイノベーション・マネジメント研究センターに、「サバティカル(研究休暇)」でいらしていた西尾久美子先生でした。
西尾先生からは、「来年大学に戻ったら、そして(娘さんの)お家が探せたら、うち(京女)で教えていただけますか?」と約束をいただいていました。
しばらく(約一年間)、西尾さんからは音沙汰がなかったのですが、突然11月にメールが来ました。そして、来年度の「特講Ⅱ」の講師に推挙していただいていたわけです。
いまから、授業シラバスを入力する作業が始まります。4月から7月までの15コマ編成になります。実は、4月22日に、ロンドンマラソンを走る予定なので、4月21日(金曜日)の授業は休講になります。その補講を考える必要があります。
特論Ⅱは、「マーケティング特論」という授業の位置づけになります。関西圏の経営者、研究者のかたに特別講義を何回かお願いしようと思っています。京都女子大の学生さんたちにとっては、確実に「お買い得な」授業になります。おそらくは、ちょっと考えられないような贅沢な講師陣です。
お楽しみに。男子学生は無理としても、関西在住の女子学生は、潜りで京都女子大の学生になれるかも。。。