マクドナルドは、4月も既存店の前年割れを止めることができなかった(既存店の対前年比売上-3.7%)。止血ができない理由は、原田さんの長期戦略の間違いから来ている。本来の姿に戻そうとしているのだが、簡単に回復はむずかしいだろう。それにしても、奇妙なことが起こっている。
株式市場は、2013年第一四半期の同社の減収減益に対して無反応なのだ。 2012年度の減収減益は確定していたが、同社の第一四半期(1月~3月)の業績も予想通りに大幅な減収減益である。売上が-9.2%、連結経常利益は-55.5%である。
にもかかわらず、株価の推移をみてみると、1月に2300円前後だったのが、5月は3000円の大台に乗りそうな気配を見せている。一体どうしたことなのだろうか?
たしかに、株式市場がこの3か月で大幅に上昇しているのだが、個別に見ていくと、業績不振の企業ではそうでもないケースも多く見られる。小売業では一般的に、売上の月次データや四半期実績に対して、株式市場は過剰に反応するものだ。マクドナルドに関してだけは、この一般法則が当てはまらない。
マクドナルドの広報は、業績不振に対して強気な発言を継続している。このようなコミュニケーション姿勢は、藤田田氏が社長だった2003年当時を彷彿とさせる。日本マクドナルドが株式を公開した直前のことである。
それでも、高株価が維持できている理由は、原田CEOに対する金融アナリストたちの厚い信頼の表れだと思われる。つぎのような戦略対応を、フード業界のメディアは信じているらしい。7年間にわたって好業績を続けてきた「原田神話」への信認の結果なのだろう。
<日本マクドナルドHP(月次報告)から> (そのまま抜粋)
2013年4月の既存店売上高は対前年比-3.7%となりました。これは前年同月に比較して土日休日が1日少ないこと(既存店売上高で2.7%の影響)が大きく影響しており、その影響を除いた実質的な既存店売上高は、3月と比べて約5%の増加となり、着実に上昇トレンドとなっております。
また、対前年比で既存店客数は+2.7%、全店客数は+4.2%となり、3月から2か月連続の客数増加となりました。これは、マクドナルドの人気定番メニューである「てりたま」に加え、「チキンてりたま」という新しい商品を販売したことにより、既存のお客様に加えて新たなお客様にもご来店いただいたことが大きく貢献しております。
4月26日から5月6日までのゴールデンウィーク期間には、スパイシーなバーベキューソースを使用した「バーベキュービーフ」「バーベキューチキン」の2商品を期間限定で販売し、ご好評をいただいております。
今後も、お客様に引き続きご満足いただける高いレベルのQSC(品質、サービス、清潔さ)を維持しながら、長期的かつ収益性の高い成長にフォーカスした活動を強化してまいります。
<解説>
データ分析で疑わしい説明がふたつある。
(1)客数の増加は、「てりたま」の導入などで獲得したものではない可能性がある。というのも、「価格プロモーションを抑制している」と言いながら、携帯のサイトなどでは、割引の電子クーポン券が多量に配布され続けている。
4月の既存店のデータ(-3.7%)を客数と客単価に分解してみる。客数+2.7%に対して、客単価は-6.2%である。客単価の下落が続いているのは、新規顧客の増加ではなく、明らかに既存客のリピートからであることを推測させる。
本当に新商品の魅力で新規顧客を獲得しているのならば、本来的には、客単価が上昇に転じてもいいはずである。
(2)土日休日の不足(一日)は正しい説明である。が、「3月比で売上増」という解説はふつうはしないものである。これは、月次データ解説の「ルール違反」である。すべては、対前年比で議論すべきである。
なお、QSCの改善に本当に着手できているのかは、疑問である。店頭を見てみよう。クルーの表情にはまだ、かつてのような笑顔が戻ってきてはいない。
牛丼を380円から280円に値下げした吉野家にも同様な戦略ミスを見ることができる。
フードビジネスの業界で、労働力不足の時に、客単価(=賃金)を落して顧客を増加させる戦略は再考すべきときなのに、である。