子供たち3人を育てたときも、わが家では動物を飼ったことがない。正確に言えば、メダカという例外はあるが、生き物は飼わないことにしてきた。今回のように、シドニーマラソンを走りに行ったり、長期の旅行に出かけられなくなるからだ。しかし、今週の月曜日から、猫を飼っている(笑)。
都内の某百貨店の倉庫で、捨てられそうになっていた招き猫を救出してきた。月曜日、早朝のことである。わたしの愛車(ホンダCRV)に乗せて、この招き猫ちゃんを自宅まで運んできた。
名前は、「マーニー」(笑)。かみさんが勝手に命名した名前だ。なんだか響きはかわいらしいが、性別は不詳。身長は約100センチ。
名前がマーニーだから、雌猫だろう。だが、見た目はどちらかといえば、男の子に見える。わたしは、ひそかに、「招福亭マーニー」と呼んでいる。縁起がよさそうだからだが、将来は、落語家としてのデビューを考えている。
マーニーの話(当時は無名だったので、単なる大きな「招き猫」と言われていた)は、二週間前から噂には聞いていた。社内的には、いろいろとドラマがあった猫らしい。廃棄用のカートに横向きに乗せられて、いかにも苦しそうにしていた。
その招き猫の写真を、どういう意図があったのか、わたしはかみさんに見せられた。彼女は、きわめて信心深い人間である。縁起物の招き猫が、こともあろうに、廃棄物のごみとして処分されるのには耐えられなかったのだろう。なので、暗黙裡に、わたしに救いを求めたと思われる。
金曜日の夜中、同僚との話で、「ねこちゃん、週末に処分される可能性が高い」との情報をキャッチしていた。土曜日の朝までに3階の倉庫から運び出しておかないと、ごみやさんに持って行かれてしまう。
マーニーがごみとして処分されてしまわないよう、月曜日の早朝に、なぜか、本件とは関係のない”夫”が運び出す算段を、社内の人脈をまるごと駆使して、完了してしまっていた。土曜日の朝のことである。月曜日に、東京の都心にある某百貨店の地下駐車場まで、車をもって猫を救出しに行かざるを得なくなってしまっていた。
説明するのを忘れていた。招き猫のマーニーのことだ。目はでかい。そして、ぎょろ目である。とにかく尻がでかい。体重は重たそうに見えるが、実際のところは、持ち上げてみると拍子抜けするほど軽い。10KGくらいだろう。
いまは、わが家の14畳あるリビングのソファーの隣りに、どんと構えて立っている。招き猫なので、かわいそうに、ソファーには座れないのだ。ただただ、突っ立っているだけだ。
マーニーは、どうみても安産型だ。子供をたくさん生みそうだ。生きた猫でないので、やれやれである。本物なら、毎春が怖い。むかし裏庭の物置で、本物の猫たちが子供をたくさん産んでくれた。
そういえば、マーニーが軽いのは、狸の置き物でよくあるような陶器製ではないからだ。いわゆる、縁日で売っている縁起物の置き物で、”張りぼて”である。
わが家に嫁入りした初日の夕食は、わたし一人だった。だから、マーニーに、「わんすけの酒」を献杯した。貴重な最後の100CCである。
今年の父の日に、京都に住んでいるむすめ(知海)が、伏見の酒をプレゼントしてくれたものだ。「わんすけの酒」と、筆で日本酒のラベルに書いてある。
かみさんの嘆願のおかげで、どうにか命を長らえた招き猫マーニーとの生活が、はじまって3日目になる。今にゃ(今夜)も献杯だ。今日もわたしは一人なのだが、リビングにはマーニーがいる。そろそろ、犬(わんすけ)と猫(マーニー)とで、酒盛りを始めることにするか。
キッチン・リビングが、「わん・にゃん酒場」へと変身する。