「セレンディピティ」という言葉をよく耳にする。英語では「serendipity」。何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける才能を指す言葉だそうだ。偶発的に、幸運をつかみ取る能力のことでもある。
わたしは、世の中の平均よりかなり高い確率で、セレンディピティに遭遇していると思う。その証拠をいくつか紹介する。
二週間前から、『マクドナルド 失敗の本質』(東洋経済新報社)という本を手掛けている。主役は、日本マクドナルドの藤田田元社長と原田泳幸元CEOである。
いま二章まで書き進んでいる。わたしは、二代目経営者の原田さんには二度しか会ったことがない。しかも、セミナーの司会とマラソン大会だったので、会話らしい会話を交わした記憶がない。内容が内容だけに、いまさらマクドナルド本社や原田さん本人にはインタビューを申し込むつもりもない。
しかし、本を書き始めてから偶然に、元マクドナルドの役員や企画担当の社員と話す機会に恵まれている。それも偶然が何度も起こっている。間接的にではあるが、当時の戦略立案や経営環境がどうだったのかを、彼らのコメントから確認することができる。
あるいは、これは「セレンディピティ」とは呼ばないのかもしれないが、わたしは、「ひらめきで、自分にとって必要な人間を掴み取ってくる能力がある」と信じている。公開してよい事例を2つだけ挙げる。
2003年ごろに、現在JFMAの専務理事をしてもらっている松島義幸さん(MPSジャパン社長)が、キリンビールを退職することになった。人材として異色のキャリアを持っているので(国内外で15年以上、3つの会社の社長を経験)、国内外のビール関連の会社からからつぎの就職先のオファーを出されていた。
そのことを知っていたのだが、わたしとしては、松島さんをJFMAの専務に是非とも迎えたかった。というのは、キリンビールでの最後のポストが、「キリン・アグリバイオカンパニー」の社長で、花事業を担当していたからだった。わたしの思いが強いことが幸いしたのだと思う。
ある日、ある瞬間、突然に思い立って(まったくの直感である)、松島さんに電話をしてみた。そのとき、松島さんは、某社(外国企業)のトップと面談していたのである(のちに本人から聞いた話)。「あの件は、どうなってますか?」(わたしの電話)。それだけだったのだが、あの件とは、「JFMAに移ってきていただけないか?金銭的な保証できないけれど、仕事内容は世のため人のためになりますよ」だった。
松島さんはおどろいたらしいが、結局はいま、JFMAの専務理事として花業界に多大な貢献をしてくれている。
ふたつめは、「㈱サンブリッジ グローバルベンチャーズ」 の平石郁生社長(法政大学大学院客員教授)とのことである。この話は、平石さんの近著『挫折のすすめ』でも紹介されている。
2009年ごろ、平石さんが、三番目に起業した「ドリームビジョン」の仕事から退いて、”晴読雨読”の日々をすごしていたときのこと。これも、偶然に思い立って、わたしは彼に電話をかけた。そのとき、平石さんは、ソファーに座って本を読んでいたらしい。そのときの電話での会話「要するに、充電中ということですよね」がきっかけで、平石さんはその後にイノマネ(経営大学院)で客員教授として教えることになった。
すべて、ある日、ある瞬間、その人のことが気になっていて、電話をしたりメールを送ったりしたことが引き金になっている。
このほかには、いま花業界で活躍している人(もともとは異業種にいた若者たち)や、わたしのビジネスや執筆の関連で世話になっている人たち(話好きなので誰とでも仲良くなる)、あるいは、いま研究活動をしている元学生(20人の教授・講師連中)には、ずいぶんと「電話攻勢」をして、わたしの仕事に巻き込んできた。
人を巻き込む能力は、明らかに、わたしに備わっている「セレンディピティ」から生まれているように思う。それを「セレンディピティ」と呼んではいけないのだろうか?よくわからない。別の言葉や概念があるのかもしれない。