『JFMAニュース』(8月号)に、昨年度(2012年12月)、学生たちが実施した「デジタルPOPの効果の事例」を掲載させていただいている。花業界では、ヤオコーさんが各店で「花持ち保証販売」の説明に活用している。一般に花業界で黒板の活用は進んでいるが、サイネージの利用は遅れている。ソフトも安くなり使い勝手もよいので、利用をもっと推進してはいかがだろうか?
「JFMAニュース」2013年8月20日号から JFMA会長 小川孔輔
昨年(2012年)の12月から今年の1月にかけて、学部の学生たちが「静鉄ストア・宮本町店」でデジタルサイネージの効果実験をしていた。来店客数の計測装置(赤外線カウンター)や監視カメラを企画開発して販売している「(株)エースワンサポートサービス」(本社:東京都立川市)との共同研究である。
「デジタルサイネージ」(digital signage)とは、「屋外や店頭などに設置された液晶ディスプレイなどの映像表示装置。近くにいる人や通りすがりの人に案内情報や広告などを表示する装置で、看板やポスターなどを電子化したもの」(IT用語辞典より)である。店頭POPやポスター、看板の電子的な代替品である。近年、交通広告系で利用が増えている。CMや動画をそのまま流せることに加えて、デジタルなので素材を簡単に変更することができるメリットがある。学生たちは、自分たちのアイデアをフリーのソフトで書き換えて、自由にデジタル広告素材を作っていた。
ところが、サイネージ班(6人チーム)は、電子POPの動画ソフト(スライド式)を作ったところまではよかったのだが、そのあとは大苦戦が続いていた。最初(10月)のサイネージ実験では、彼らが思っていたような効果が上がらなかった。東京都内の某食品スーパーの棚を借りて、2度ほどデジタルサイネージを設置した実験を試みたが、売り場の前を通る客の注目率も買上げ点数にもまったく変化が起こらなかった。店頭でのサイネージ実験で「音」が出せないことが原因だと思われていた(学生たちの意見)。しかし、そもそも対象商品(即席ラーメンなど)がわたしには月並みな感じがしていた(小川先生の感想)。
プロジェクトが頓挫しそうになっていた年末近くになって、花の関係(JFMA)で仕事のお手伝いをさせていただいている「静鉄ストア」から、サイネージ実験のために店頭を貸していただけることになった。静鉄ストアの分析チームがID-POSデータ(個人の買い物行動が把握できるポイントカード)を使った店頭実験をしていることもあって、親切な担当者が学生たちにアドバイスしてくれることになった。
学生チームをわたしが引率して、11月に静鉄ストアの宮本町店を訪問して店頭を見てみることになった。今度は、アプローチを逆にしたわけである。つまり、サイネージの素材を先に作るのではなく、サイネージを用いて効果が上がりそうな商品ジャンルと売り場を選ぶことにした。売り場を回ってきた学生たちは、今度は3つの商品と売り場を選択した。「はごろものシーチキン(缶詰)」、「片岡物産のドリップコーヒー(モンカフェ)」、そして、最後のアイテムは、「ギネスビール」(+チーズ)だった。
結果を先に行ってしまう。全部のサイネージが何らかの効果をあげたのだが、ギネスビールに対して関連販売された「チーズ」の売り上げが5倍になった。学生たちが賢かったのは、通路を隔ててビール売り場の反対側にチーズ売り場があることに気付いたことである。関連販売をするとき、通常はクロスMD商品を、その隣に持ってくるものである。
ところが、学生たちは商品(チーズ)の位置はそのままに、ギネスビールの隣に設置したデジタルサイネージを用いて、「後ろ、後ろを見てください! ギネスビールのおつまみにチーズを」というコピーを作った。サイネージを見た買い物客は、たいてい後ろのチーズ売り場を振り返ることになる。これが大ヒットにつながったわけである。
このアイデアは、花のセルフ販売の売り場でも使えるような気がする。切り花や鉢物と関連販売される商品アイテムは、意外な商品かもしれない。花の売り場ではこれまで、デジタルサイネージは「説明的な使用法」しかなされていない(たとえば、日持ち保証販売の説明)。学生たちのように、創造的にクロスMD商品を考えてみてはどうだろうか?