【学生感想文】『小さくて強い農業をつくる』久松達央著(2014)

 学生感想文の優秀作品を1名分、追加掲載する。


『小さくて強い農業をつくる』小川ゼミ読書感想文 38期 鈴木 基之

 本書『小さくて強い農業をつくる』は著者の久松さんの手がける有機農業について詳しく知ることのできる著作だ。有機農業…とりあえず健康に良さそう、そんなイメージしか今まで持ってなかったし、興味もなかった。おそらく自分自身の意思でこの本を手に取ることはなかっただろう。しかし、読み進めていくと、有機農業ならではの厳しさ、自然と共生して生きる素晴らしさなどが直に伝わった。
また、ただ有機農業を持ち上げるというような一方的意見でないところに好感が持てる。たとえば、農薬を使う農業の安全性や、生産性などの素晴らしさ、ただ有機農業というだからいいというわけではない点などをしっかりと読者に伝えている。しっかりと比較をし、間違った認識をしてほしくないという著者の最大の配慮だろう。

 本書は農業という軸で久松さんの体験してきたこと、感じたことが書かれている。当然農業のことが主軸で書かれているし、著者も農業に関心のある人を念頭に書いているようだ。しかし、単に農業という枠を超えた様々な要素が混じっていてとても勉強になると感じる。それは作業の可視化の重要性といった管理論であったり、SNSでソーシャルなネットワークを活用する重要性を説いたSNS論であったりする。おそらく見る人のよってとらえ方は異なると思うし、得られるもの、感じるものは様々だろう。
 私にとってのとらえ方、感じ方は、失敗を通じて、それを生かし、工夫し成長していく失敗論である。著者の久松さんは数多くの失敗をしてきたようだ。農業の研修先で作物をひっくり返したり、自力で作ったビニールハウスをダメにしてしまったりした。そもそも農業のセンスがないと実感してしまうような出来事もあった。しかし、その失敗を生かし自分ができることは何か、次を考えてきたからこそ今の著者の姿があるのだろう。私も失敗をすることの重要性を最近強く意識するようになったので、強く共感しながら書を読み進めていた。
 
 失敗の重要性を意識したきっかけは12月13日に行われた大学院生によるコンサルティングの場だ。普段のゼミ活動の一環として行っているフールドワークに対するフィードバックを受けるというものだ。社会人も多く在籍する大学院生、当然厳しい指摘があることは覚悟していた。しかし、想像以上に厳しい意見をもらった。
 プレゼンテーション後の質疑応答、グループになっての議論、紙による意見シート、このコンサルティングの中で3回意見をいただく機会があった。そのどれもが、自分たちの至らなさを実感するものだった。調査の仕方や、ロジックの立て方など根本的な間違いを指摘され、どん底に落とされた。
 一年間近くやってきたことだけに、このように考えることが出来たらどんなに良かっただろうか、そう思うと後悔してもしきれなかった。しかし、このコンサルティングの中で新たな気づきがあったのも事実だった。失敗のくやしさが強ければ強いほど、次は失敗しないと思う気持ちが強くなることである。頭でどんなに理解していても、実際にそのように行動するのは難しい。けれでも、実際に失敗してつらい思いをすればそれが体に刷り込まれるのだと思う。それが自分自身の成長であり、強みになるのだ。大学院生の方も「社会にもまれないと俺らもこう考えられなかった」とおっしゃっていた。
 この失敗する重要性というのも、実際に失敗を意識した経験がないと気づかないというのも皮肉なことだ。おそらく違うタイミングで本書を読んでいたらもっと違った印象だっただろう。

 もう一つ、本書を読みながら思ったことがある。それは以前の読書感想文で読んだ福島屋の本と似ている部分があるということである。福島屋はスーパーマーケットで、久松農園は農場、同じ食という分野なのはもちろん、ニッチよりのポジションであるというのも共通している。そればかりではなく、社会に還元する使命感や、従業員、取引先を大切にすることも似ていると思う。本書を読みながら、福島屋と似ている考え方だなと思う個所も数多くあった。
 これは単に二人に共通する事柄ではなく、現代に必要となってきた考え方なのかもしれない。そんなことも感じながら読めた。

本書は全体的に読みやすかった。ユーモアもあり、時には詩集かと思うほど多くの詩が載っていた。文体もよく、農業というとっつきにくい分野でありながら、読みやすかったのは著者の魅力が表れていたからかもしれない。是非農業に興味のある人もない人も一読してみてもらいたいと思える本だった。