『オルタナ』の森摂編集長からメールをいただいた。文章の後に、わたしの見解を付け加えてある。民主党がマニュフェストに盛り込んである主張「高速道路の無料化」は、一般消費者にとって福音である。それだけではない。国内の一般企業にとっても、喜ばしいことである。日本経済にとってもプラスであり、地球温暖化を阻止する決め手でもある。その理由を述べてみたい。かなり逆説的な結論である。ほとんどのひとは、この点に気づいていないかもしれない。
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小川 孔輔さま
いつもお世話になっています。
雑誌オルタナは今月、次期衆院選の各党マニフェスト(政権公約)の特に環境政策分野について比較検討し、その結果、民主党のマニフェストをエンドース(支持)すると表明しました。
これに対して、同じ民主党のマニフェストには高速道路無料化がうたわれており、これにより自動車の交通量が増えれば、民主党のCO2削減目標(2020年までに25%)と矛盾するのではないか――との声が少なからずオルタナ編集部に寄せられました。
この点をさらに明らかにするため、オルタナ編集長の森 摂は8月26日、民主党のマニフェストで環境分野を担当している福山哲郎参議院議員に電話取材し、下記の説明を受けました。まずは皆さんにご紹介します。
(以下、福山議員の発言要旨)
高速道路の無料化とCO2削減は矛盾しません。これまで高速道路の料金が高いためにクルマが一般道に流れ込み、渋滞を引き起こしている箇所も数多くありました。高速道路が無料化されれば、交通が分散され、渋滞緩和につながることも期待できます。
国土技術政策研究所の試算(2008年度)によると、高速道路を10割引(無料化)にした場合、全国の自動車によるCO2排出量は年間310万トン削減でき、これは自動車によるCO2排出量の1.8%に相当するとのことです。
民主党は、キャップ&トレード方式による実効ある国内排出量取引市場、地球温暖化対策税の導入、自然エネルギーの固定価格買取制度(全量買い取り)を早期に導入するなど、トータルで環境政策を進めます。高速道路の無料化だけを取り上げて、地球温暖化対策と矛盾するという論はあたらないと考えます。
(以上、福山議員の発言要旨終わり)
民主党の高速道路無料化に対しては、無料化されると交通量が増大し、CO2の増加を招くなどとして、「気候ネットワーク」などの環境団体が強く反対しています。オルタナとしては、民主党の地球温暖化対策は自民党に比べて、高く評価したいのですが、高速道路の無料化については、CO2が増えるのか、あるいは福山議員が主張するように、逆に削減されるのか、まだ確証が持てません。
もし仮に民主党が政権をとり、高速道路が無料化された場合、交通量を精細に分析し、そしてCO2が増えるような事態になれば、速やかに次の対策を取るよう、求めたいと思います。また、ガソリンの暫定税率については、オルタナ11号「環境税は怖くない」で取り上げたように、廃止するのではなく、環境税(炭素税)化するのが良いと森は考えます。
オルタナは今後とも、3日後に控えた総選挙の結果にかかわらず、環境と経済の問題を注意深く検証していく所存です。今後の誌面に、どうかご注目ください。
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オルタナ森編集長へ
いつもお世話になっています。
今度は、OMR(オーガニック・マーケティング・リサーチ)にご協力いただき、ありがとうございます。また、セミの学生の「チェコ料理、FC展開」のフィールドワーク・プロジェクトにも、ご協力いただき、ありがとうございます。
さて、本題です。わたしの見解は、民主党の主張に大賛成です。
実は、政治的に議論されている「高速道路の無料化」の効果は、国内だけで論じられるべき問題ではありません。通説の論議は、国内で閉じられた片手落ちのロジックです。目を世界に向けてみると、貿易(国際比較優位)と国内生産のコストメリット(国内サービスの生産性)の観点から、最終の結論を導き出すことができるはずです。
具体的に議論を展開してみます。
現状、海外で生産された製品が自由に、しかも大量に日本に入ってくる原因のひとつは、国内の輸送コストが異常に高くついているからです。例えば、わたしは、今月、新潟県の妙高高原で、10日間の休みを過ごすために、自家用車で妙高市まで車を飛ばしました。
自宅がある千葉県から、妙高高原までは自動車でわずか3時間半です。行きは日曜日でしたので、高速料金は千円ぽっきりでした。しかし、月曜日の帰りの料金は、ふだんの5千円強でした。この差額は、産業用製品の輸送業者が物資を輸送するために負担している金額を表わしています。
もしわたしが輸送業者で、例えば、千葉から新潟まで、ピーナッツや特産品の梨を新潟まで運ぶとします。ある衣料品の業者さんから聞いた話ですが、台湾の高雄から横浜港に荷揚げするための運賃は、国内運賃の半額で済むのだそうです。
国内の輸送費用は、高速道路の料金とガソリンの費用(+運転手の労賃)の合計ですが、高速道路の料金が、労賃を除くと輸送コストの半分以上を占めています。オイル高騰の折でも、ガソリンの値段の高さは、それほど深刻な問題にはされませんでした。これは、事実です。
海外製品に競争優位性があるのは、海外の安い労賃以外では、輸送賃が安いというのが大きな理由なのです。労賃の安さを除くと、海外産品の強みは、輸送費が安いことにあるのです。だから、高速道路を無料化すれば、輸入品に対する国内産地(とくに、加工品と農産品)の比較優位は実質的にかなり高まります。
地球温暖化との関係は、以下のロジックになります。もし国内高速道路の運賃が実質的に無料になったとしましょう。
国産品が輸入品に比べて、相当程度に販売コスト上で有利になります。結果として、消費財と生産財(農産品を含む)はともに、国産品の割合が多くなるはずです。値段が安いからといって、無理をして、海外から重量的にかさばる農産物や加工食品、衣料品、木製品、家具などを輸入するメリットは薄れます。結果として、社会的なコスト(CO2)の削減に資すること、間違いなしなのです。
近視眼的に物事を考えてはいけません。
国内の高速道路を無料化することは、現在、国際貿易を通して自然環境に排出されているCO2(輸送コストが低いという理由から)を、事実上、日本国の税金で内部化してしまうことなのです。日本が、二酸化炭素の「排出抑制」を税金で間接的に補填してることになるのです。
ただし、その道筋は、一般に考えられているような単純な論理からではありません。税金の移転効果を通して、炭酸ガスの排出がグローバルに抑制されるという違いです。
高速道路の無料化は、国内生産者(農工商業者のすべて)に対して福音です。国内メーカーが海外産品と戦う場合の実質的なコストは、商品の価格+物流費です。国内の物流費を下げることで、国産品の競争力が高まります。結果として、例えば、食料品の国内需給率を高める効果もあります。
消費者向けでも、派生的な政策効果が生み出されます。国内のサービス需要を刺激することは、この夏の状況をみておわかりだと思います。われわれがすでに実感していることです。近場で日帰り、海外旅行よりは国内旅行(二酸化炭素の排出削減)が増えています。同じ旅行ならば、だれが考えても、(コストが安くなれば)国内旅行のほうが、CO2排出量は抑制されます。
結論は明らかだと思います。現実をよく知らない経済学者の持って回った議論には、軽々に乗らないことを願います。