市場の“せり”では、一番高い値段がついたときに落札されるのが一般的。だが、逆に値段が下がっていく方式のせりもあるという。いったいどんな仕組みなのか?その謎を取材した!
ふつうは値段が上がるのに、なぜ“花”だけは値段が下がる方式なのか?
買参人(せり買い人)の声が威勢よく飛び交う卸市場。野菜や魚の場合は、せりにかけられたモノの値段が上がっていくシーンが思い浮かぶ。ところが、花だけはその反対。値段が下がっていくという。
「せりには“せり上げ”と“せり下げ”という2種類があるんです。花は、せり下げで入札価格が決まります」(小川孔輔先生)
せり下げと聞きなれないが、いったいどんなものなのか?
「通常のせりは、安い価格から始まってどんどん上がっていく。最後まで脱落しなかった人が落札するチキンレース方式です。一方、せり下げは高い価格からスタートし、下がっていきます。買参人が欲しい価格で機会のボタンを押して入札し、一番早く押した人が入札する、という仕組みです」
大量の品種を新鮮なうちにさばくために考案された!
せり下げは、花の大国オランダにルーツがあり、別名“ダッチオークション”とも呼ばれる。
「ヨーロッパは世界の花の消費量の約1/3を占めていますが、それらの花はいったんオランダの花き卸市場に集められ、せりで卸値が決まってからヨーロッパ全土に出荷されているんです。大量の花を新鮮なうちに出荷するには、せりが短時間で終わることが望ましい。せり上げだと、価格が上がっていって、なかなか終わらないため、花の鮮度が落ちてしまう。そこで考え出されたのが、せり下げなんです」
日本の花き市場も状況は同じ。以前は各地に小さな市場が数多く存在したが、1990年代から統合が進み、1つの市場で取り引きされる量が急増。それに対応するため、短時間で終わるせり下げ方式が採用されたという。しかし、鮮度が大事なのは花に限ったことではない。野菜や魚もイキのよさが問われる。なのに、なぜ、花だけがせり下げなのか?
「花は約3000種と多品種で、箱単位という小ロットでせりが行われます。一方、野菜や魚は品種が少なく、ロットも主にトラックや船単位だから、せりの回数も少なくてすむ。花は野菜や魚に比べてせりの回数が多いので、せり下げでないとさばき切れないんです」
せり下げには、もう1つの特徴がある。それは公平性だ。
「せり上げは、せり人の裁量が大きいため、懇意の買参人に意図的に入札させることも可能。しかしせり下げでは、機械化が導入されているので、人為的な操作はしにくいですね」
なるほど。談合防止にもひと役買っているとは、さすが合理精神のオランダ人が考えただけのことはある!
せり上げとせり下げの比較
扱う品 特徴
せり上げ 野菜・魚・肉など せりにかけられる単位はトラックや船単位。品種もそれほど多くはない
せり下げ 生花 せりにかけられる単位は、箱や小ロット。約3000もの大量の品種がある