[『セブン・イレブンの秘密』」『Big Tomorrow』連載第8回(2009年4月号)

駅の北口にセブン-イレブン、南口にもセブン-イレブン。街をちょっと歩くと、あちこちで目に入ってくるオレンジ色と緑の外観。狭いエリアになぜ何店もあるのか?店舗数の謎について取材した!


なぜ同じチェーンの店舗がすぐ近くにあるのか?
 いまや都心のコンビニは飽和状態で、ときには同じ会社の店舗が近接しているケースもある。なかでも目につくのが、最大手のセブン-イレブン。たとえば、JR市ヶ谷駅の半径2キロ(徒歩25分)圏内には17店舗もある。同じエリアにこれほど多く出店して、利益が上がるのか?
 「ある意味では自社競合状態ですが、これも戦略の一つです」
 と、解説するのは小川孔輔先生。
 「じつは店舗数のシェアと売上シェアは正比例しません。米国のガソリンスタンドを対象にした調査によると、業界のなかで店舗数のシェアが30%以下の会社は売上シェアが大きく伸びませんが、逆に店舗数のシェアが30%を超えると、売上が飛躍的に伸びることがわかっています(図参照)。
 つまり、ひとつの地域に同じチェーンのコンビニを密集させて店舗数を増やしたほうが、1店舗当たりの売上も増えるのです」

 お客は、よく目にする店に惹かれるという心理が!
 この現象には「お客は見慣れたものに目が行きやすい」という消費者心理も関係している。
 「テレビをぼんやりと見ていても、自分が乗っている車のCMが流れるとすぐ気づくという人は多いはず。これは店舗も同じで、あまり親しみのない店より、普段からよく見かける店ののうに目が行きやすい。だから店舗シェアが大きいほうがお客を集めやすいのです」
 この消費者心理をもとにした広告理論が、「三回露出理論(スリー・エクスポージャー・ルール)」だ。
 「これは消費者が店舗や商品を選ぶとき、広告などで3回以上目にする機会があると、買う確率が高まるという理論です。店舗は看板が広告の役目を果たすので、店舗数が多いほうが足が向きやすいんです」
 こうした心理的作用以外には、消費者がポイントカードなど全店共通のサービスを利用しやすいというメリットもある。店舗数が多いコンビニについ行ってしまうのも、当然の結果だ。

 商圏が2倍になると物流コストは4倍に
 店舗を集中させる戦略は、コンビニ本部にとってもメリットは大きい。その一つが物流コストだ。
 「商品を選ぶコストは、商圏の半径に対して2乗で増えます。簡単にいうと、半径が2倍になれば、トラックは4倍台数が必要になる。こうしたコストを抑えるには、店舗をできるだけ密集させたほうがトクなんです」
 地域に店舗が集中していると、管理も効率的になるという。
 「スーパーバイザーは効率的に移動できるし、エリアが狭いとマーケットも同質なので、地域の特性に合わせた展開ができます。たとえばビジネス街で『A弁当が売れて、B弁当が売れていない』とわかれば、同じエリアの他店も同じ商品構成で展開できる。廃棄のロスも減らせます」
 消費者には買いやすく、店側は管理しやすくなるのが、多店舗集中展開の利点。これは他業種のチェーンも同じ。ドトールやマクドナルド、すき屋をやたらとよく見かけるのも、これでナットク!

<店舗数と売上シェアの関係>
店舗シェアが30%を超えると、売上は加速度的に増える。ただ、店舗シェア60%を超えると、消費者に飽きられて売上も伸び悩む

<物流エリアとコストの関係>
物流コストは面積(半径2×π)に比例。工場や倉庫からの距離が伸びれば、その2乗分のコストがかかる!