「いいモノを安く」-これが実現できるかどうかで、企業の生き残りは決まる。製造、流通、販売…どこをどう工夫すればいいのか?破格のパソコンで注目されるDELLにそのヒントを探った!
『DELLコンピュータが安いワケ』
性能のいいパソコンがなぜ7万円という破格の安さなのか?
DELLコンピュータの人気の理由は、なんといってもその安さ。個人向けデスクトップの標準パッケージで最安モデルは6万4980円(キャンペーン価格・10月28日時点)。
この驚異的な価格はなぜ実現できるのか。
「DELLは直販だから安いという人もいますが、本当の理由は別にあります」
と、解説するのは小川孔輔先生。
「直販は中間マージンがないため安くなるイメージがありますが、店頭でお客さんに勧めてくれる人がいないため、そのぶん広告宣伝費にお金がかかります。たとえば直販の化粧品がそう。テレビでCMを大量に流すので、むしろ販売店で売られている化粧品より高めですよね」
<在庫のロスを抑えて驚異の低価格を実現!>
では、安さの本当の秘密とは?
「組み立ての手順が違うんです。他のメーカーは、先に部品を組み立ててから完成品を出荷する“押し出し型(プッシュ型)”。押し出し型は完成品の在庫を大量に持つので、それだけロスが発生しやすくなるのが特徴です。一方、DELLは注文を受けてから組み立てる“引っ張り型”で、完成品の在庫リスクはゼロ。その分価格を安く設定できます」
発想はベネトンの後染めシャツと同じ。普通は色のついた糸を織ってシャツを作りますが、ベネトンは無色の糸で作り、売れ行きを見て後で染色加工。売れ残りを減らせるため、安く売っても損はしないというわけです。
「ただし、引っ張り型は受注に合わせて1つひとつ組み立てるため、オペレーションコストがかさみやすい。人件費の安い中国で組み立てるなどの工夫をしているからこそできる戦略です」
もう一つ注目したいのは、“裸のモデル”であること。
「ソフトやスペックが最小限なので、フルパッケージと比べて安いのは当然。ユーザーが好みに合わせてメモリなどを増設すれば、結局はそれなりの値段になります。ただ、6万円台から10万円台からの品揃えでは、消費者の注目度が違う。裸のモデルが、いわば“見せ筋商品”の役割を果たしているのです」
ただ、見せ筋効果は副産物で、本当の狙いは他にあるとか。
「PC普及期はフルパッケージが人気でしたが、慣れてくると次は自分なりにカスタマイズしたくなるもの。旅行も最初はパックツアーのほうが安心ですが、2回目は自分でプランを立てたくなるのと同じ心理です。裸のモデルは、こうしたニーズに応える商品だと言えるでしょう
<用語解説>
引っ張り型= オーダーがあってから組み立てを開始。部品の発注も受注状況を見ながらなのでロスが少ない。ただ、1つひとつ作るため、組み立てのコストはかさむ
例:DELL
押し出し型= 最初に部品を組み立て、完成品を用意してから販売。まとめて作るのでオペレーションコストは抑えられるが、売れ残りを抱えるリスクがある。
例:ソニー、NEC