「激安フレンチの秘密」『Big tomorrow』連載第63回(2013年9月号)

 本格フレンチなのに、居酒屋並みの値段で食べられるといま評判の『俺のフレンチ』。連日行列ができるそのおいしさと安さの秘密に迫った!


立ち食い、単品メニュー、激安、仕入れをシェフに一任…業界の常識を覆す驚きの経営手法とは?
 フォアグラと白レバーのムースが980円、活オマールのローストが1280円。高級フレンチを激安で提供する、いま話題の「俺のフレンチ」。急成長中のチェーン店ですが、なぜこんなに安くできるの?
「秘密は回転率にあります。普通の店は、せいぜいランチ1回転、ディナー1回転。しかし同店は夜の営業だけで3.5回転。粗利が低くても客数が多いので赤字になりにくい」
と解説するのは小川孔輔先生。一般的なフレンチの客単価は1万5000円前後ですが、同店は3000円。安すぎる気がしますが、下のシミュレーションを見ると、3.5回転で月約1260万円の売上が出る計算に。回転率しだいでは激安料金でも経営は成り立つのです。

フレンチの常識を覆す立ち食い&一品メニュー!
 同店ではどうやって高回転率を実現しているのでしょう?小川先生が注目するのは原価率です。
「いくら低価格でも、安かろう悪かろうではお客さんは来ません。『俺のフレンチ』の魅力は50~60%という原価率。一般的な食べ物の原価率は30%前後なので、原価900円の肉であれば高級店は3000円前後で提供します。しかし、同店は一流店と同じ品質の肉を1500円程度で提供する。だからお客さんが殺到するのです」
 立ち食い形式であることも、高回転率を実現する要因の1つです。
「一般的なフレンチ店のテーブルはだいたい4人掛け。お客さんが2人でも相席はしないので、ムダな席が生じます。一方、『俺のフレンチ』の場合、立ち食いのため席数に縛られず、1つのテーブルを3~4人が囲むから効率がいい。また、長時間は立ち続けられないため、自然に滞在時間も短くなり、回転率が高まるんです」
 さらにメニューにも秘密が。
「高級店のメニューはコースが基本。順番に料理が出てくるので、デザートを食べ終わるまで2時間ほどかかります。が、『俺のフレンチ』は一品料理主体の居酒屋スタイル。1時間くらいでサッと帰る客が多い」

お客さんを飽きさせない独自の経営戦略とは?
 低価格でもやっていけるのは、高原価率・高回転率で客数が多いから。じつはこれとよく似た実態があります。
「回転ずしの『スシロー』が同じ戦略です。品質のいいネタを高原価率・低価格で提供しているので粗利は薄いですが、回転率を高めることで収益を出しています。その他、牛丼やファストフード店も同じ戦略です」
 ただし、これらのチェーン店と「俺のフレンチ」には決定的に異なる点もあります。それは、個店経営であること。
「通常のチェーン店は、全店で材料を一括仕入れして、工場で途中まで加工して店舗に運ぶセントラルキッチン方式がほとんど。それに対して同店は、仕入れやメニューをシェフに一任。そのため店ごとにメニューが異なったり、同じ店でもその日に仕入れた材料によってメニューが変わったりします。お客さんとしては週一で通っても飽きがこない。これも行列が絶えない理由の1つでしょう」
 しかし、個店経営には弱点も。
「チェーン店は運営がシステム化されているので、キャリアが浅い人でも店長ができます。しかし、個店経営は腕のいいプロでないと店長は務まらない」
 7月現在、同チェーンはイタリアンなど系列店を含めて都内中心に16店舗を展開中。さらに出店攻勢をかけるには、人材の確保がカギになりそうです。