「この味で、290円!」。舌も財布も満足するのが、格安ラーメンで有名な幸楽苑。「チャーシューが薄くて、メンマが1本少ないんだろ?」と邪推したアナタ。そんなセコい話じゃない。では、儲けの秘密はいったい…
290円の幸楽苑、どうやってこの安さを実現しているのか?
ランチ代を節約したいビジネスマンにとって中華そば290円は強い味方。でも、この価格で本当に儲けは出るのでしょうか?
「格安ラーメン店は、じつはユニクロと同じ仕組みなのです」と解説するのは小川孔輔先生。
「幸楽苑は、麺やチャーシューなどを自社工場で生産するSPA(製造小売)。店舗ごとに食材を仕入れるラーメン屋さんと違い、工場で一括して仕入れるため、コストを大幅に削減できます。また仕込みも工場で行うので、店舗はパートで対応でき、人件費も安く抑えられます。SPAの例として衣料品のユニクロが有名ですが、それと同じ方法で安さを実現したのが、幸楽苑なのです」
行列ができるラーメン店とできない店、どっちがいい?
しかし、いくらコストが安くなっても、290円という安い値段では利益も少ないのでは?
「幸楽苑のウリのひとつはメニューの多さ。しかも一品一品が安いので、お客はギョーザ(180円)や半チャーハン(280円)、味付玉子(100円)などのサイドメニューやトッピングを気軽に追加できます。一品一品が安くても、品数をたくさん注文してもらえば、それだけ利益も積み上がります。まさに、薄利多売で儲けを出しているんです」
じつはメニューの多さには、薄利多売という戦略においてもう一つ大切な役割があります。
「メニューがバラエティに富んでいると、毎日行ってもお客は違う料理を食べられます。つまりメニューの豊富さは、お客を飽きさせず、来店頻度を増やすための工夫でもあるのです」
ただ、来店頻度を増やすときに注意すべきなのが行列です。
「行列で待ち時間が生じると、お客は離れていきます。ですから、薄利多売のビジネスモデル飲食店にとって、行列は痛手。幸楽苑は店舗が比較的広く、座席数も多いのですが、これもお客を逃がさない工夫でしょう」
しかし、ここで疑問が…。個人経営のラーメン店のなかには、いつも行列ができているところがあります。そうした店ではむしろ行列を歓迎しているような気配も…。なぜ?
個人経営の店はチェーン店とは逆に、品数を絞って、一品あたりの価格をやや高めに設定しています。これは、客数よりも客単価で利益を上げる戦略をとっているからです。個人経営では、対応できる客数に限度があるため、売上を伸ばすには一品の価格を高めに設定せざるを得ないという理由です。ただ、高くてもお客に満足してもらうには、独自の味で他店と差別化を図るなど、高付加価値をつける必要があります。その意味で、行列は『この店でしか食べられない味』という宣伝になるのです。ですから、個人経営の店にとっては、適度な行列ができたほうが、ブランド価値が高まってありがたいというワケです」
独自の味を求めて行列に並ぶか、すぐに入れる店にするか。さて、今日はどっちにします?