「小川先生のマーケティング講座 -「コーヒー+α」の商品戦略- 」『PRESIDENT NEXT Vol.3』(2015年4月15日発売)

 『PRESIDENT NEXT 』(ダイヤモンド社)で新しい連載が始まりました。第一回は「コーヒー+α」。2014年末からセブン‐イレブンやローソンといったコンビニ大手がドーナツに力を入れ始めた。なぜいまドーナツなのか。その背景を法政大学経営大学院の小川孔輔教授は、次のように解説する。



 「始まりはコーヒーです。コンビニのコーヒーは原価率が高く、単体ではあまり利益が出ない。それでも貴重なレジ横のスペースを使って売るのは、手ごろな価格のコーヒーで集客し、サンドイッチやスイーツなどの関連購買で儲けるため。ドーナツを始めたのもコーヒーを買いにきた客の〝ついで買い〟が狙いです」
 つまり最近のドーナツ導入は、コーヒーの高い集客力を当て込んでのことなのだ。

 ただ、課題もある。コーヒーはもともと愛飲家が多く、コンビニでもヒットする素地はあった。一方、ドーナツは、かつて鳴り物入りで上陸したダンキンドーナツが撤退したように、それほど馴染みのある商品ではない。

 「甘くて油っこいアメリカ風のままでは、市場に定着するのが難しいでしょう。イノベーションが必要です。実はコーヒーにしても1980年代以降、何度もコンビニが導入に挑戦しては失敗していました。今回、コンビニにコーヒーが定着したのもイノベーションがあったからです」

 教授によれば、1杯ずつ豆をひいてドリップする専用のコーヒーマシーンの開発がイノベーティブだったという。かつては作り置きしておいた時代もあったが、メーカーと共同開発したマシーンのおかげで、格段に味がよくなった。

 「ドーナツもまた然りです。日本人の志向に合わせて甘さを控えめにするなど、何か一工夫しないと定着しないのではないでしょうか」

 しかし、追い風も吹いているという。それは食生活の変化だ。
 「最近は1日3食より、1日5回くらいに分けて少量ずつ食べる人が増えてきました。細切れの食事習慣にドーナツは合っている。日本人好みの味を追求したうえで『休憩のときにコーヒーと一緒にどうぞ』という食べ方提案がうまくできればヒットするかもしれない」

 ローソンが仕掛けた「冷やして食べる」や「家に持ち帰って食べる」というコンセプトが、ドーナツのイノベーションになり得るか、注目したいところだ。

 顧客に買ってもらうには、いい商品を開発するだけでなく、商品の利用シーンを想起させることが重要。その点で、レジ横にコーヒーとドーナツを並べるのは理にかなっている。ほかの業種でも、商品の利用スタイルを提案するコンビニの戦略は参考になるのではないだろうか。

マーケのヒント!
●新商品と既存商品の組み合わせを考える
●新商品にイノベーションがあるか検証する