「牛丼のサイズの秘密」『BIG tomorrow』連載第24回(2010年7月号)

 牛肉の輸入問題があって、一時は低迷していた牛丼チェーン。が、ここにきて人気が再燃してきた。肉の品質や味を落とすことなくお客を満足させる、牛丼界の新たな戦略とは?


小から大まで、丼のサイズを増やすと売り上げが伸びる理由とは?
 近頃、牛丼のサイズがやたらと増えたと思いませんか。松屋は4サイズ、すき家は6サイズ、吉野家は従来の3サイズに加え、軽盛と期間限定の特大盛を今年4月に投入して、計5サイズに。昔は並と大盛の2サイズしかなかったのに、いったいなぜ?
「サイズを増やすと、客単価が上がるのです」
と解説するのは小川孔輔先生。いったいどういうこと?まずは大きいサイズから説明します。
「大きいサイズの牛丼は、いわばバンドリング(セット販売)の一種。並2つより、特大サイズを1つ注文させたほうが割安な価格でお得感を演出でき、並1つでは物足りない若い層の客単価アップを狙えるのです」
 たとえば、すき家の場合「並」は280円で、肉の量が3倍の「メガ」はは610円。3杯分の肉の量でありながら、値段が約2杯分なら、たしかにお得だ。
 でも、それでは利益率が下がって、儲けが減るのでは?
「お客からは割安に見えても、3杯分を1回で提供できればオペレーションコストが下がるため、利益率はそれほど大きく変わらないはず。また利益率が多少下がっても、客単価が上がれば売り上げが増えるので、大きなサイズを注文するお客が増えるほどお店は儲かるのです」

値段が安い小サイズでも、客単価が上がるワケとは?
大きいサイズが客単価を上げることはよくわかります。しかし、小さいサイズの投入は、逆に客単価を下げてしまう気が…。
「最近は牛丼店に女性客が気軽に入るようになりました。ただ、小食でヘルシー志向の強い女性客にとって、並とサラダの両方は量が多すぎる。サラダをやめ、並だけを注文するケースが目立ちました。そこで登場したのが、小さいサイズ。これだけだと客単価は下がりますが、小さいサイズなら、これまであきらめていたサラダも注文できます。つまり小さいサイズの投入も、サラダとのバンドリングによる客単価アップが狙えるのです」
 ちなみに値段を比べると、すき家の「並」は280円で、「ミニ」とサラダをセットにすると330円。満腹感はそれほど変わらずに、客単価は50円アップ。まさにバンドリング効果です!

消費者のニーズは、肉の産地よりも安さ!
 激化する牛丼戦争で、やや遅れをとっているのが吉野家。
「吉野家のキャッチフレーズは“うまい、安い、早い”でしたが、いま消費者が求めているのは、“安い、安い、安い”。品質(肉の産地)にこだわるあまり値下げのタイミングが遅れ、顧客離れを引き起こした感があります。デフレのいまは、安さが最優先。安さを実現したうえで、利益率の低下をカバーする戦略が求められます」
 各種サイズの投入は、安さを前面に出したうえで、客単価増を狙う一挙両得な戦略。他の業界でも、ぜひ参考にしてみては?

牛丼の“サイズと値段”の比較(円)
吉野家 軽盛300 並盛380 大盛480 特盛630 特大盛730
松屋 小280 並320 大420 特520
すき家 ミニ230 並280 肉1.5盛380 大盛380 特盛480 メガ610