「海の家の秘密」『Big tomorrow』連載第51回(2012年10月号)

 夏になると、浜辺に立ち並ぶ海の家。花見の場所取りのように、先にいい場所を取った人が営業できるの?ひと夏でどのくらい儲かる?営業権の疑問から儲けの謎まで探ってみた!


夏の間だけのオープンで、1年食べていけるのか?
 海の家は夏の間しか営業しないのに、儲かるのでしょうか? 
「それに答える前に、まずは海の家の営業権について解説する必要があります」と語るのは、おなじみ小川孔輔先生。じつは海水浴場の多くは国有地で、海の家の営業には管理権限を持つ都道府県の許可が必要なのです。が、新規の許可は下りにくく、開業したい人は既存業者や各地域の「海の家組合」と交渉して営業権をレンタルしたり、買い取らなければなりません。
「営業権は場所によってピンキリで、さびれた浜辺なら売上の5%、人気のビーチなら売上の20%が場所代の目安だと思われます」

焼きそばやトウモロコシなど簡単メニューで粗利30%!
 では、実際に儲かるかどうかの問題に移りましょう。貸出中の物件(バックスペース込みで200坪、ワンシーズンの営業権は200万円、立地は中級)を参考に試算してみると…
。営業権を売上の10%と設定した場合、ワンシーズンに必要な売上は2000万円。雨の日はお客さんは海に来ないため、営業できる日数を50日とすると、1日の売上は40万円。
「客単価が2000円なら、1日の客数は200人。200坪のうち半分を顧客スペースにあてれば、1坪あたり2回転で採算ベースに乗る計算になります」
 その他の支出はどうでしょうか?
「おそらく人件費は20%、商品の原価率は30%程度ではないでしょうか?料理は焼きそばやトウモロコシなど高度なスキルがなくてもできるものばかりなので、人件費はそれほどかかりません。商品はリゾート価格で高めに設定してあるため、原価率も比較的低い。ですから、人件費と仕入れ原価を合わせても50%は超えないはずです」
 もう1つ見逃せないのが、建物の建設費と解体費用。
「建物は簡易なので、通常の店舗よりはずっと安く建てられる。一般的な店舗の減価償却と比較して考えても、せいぜい売上の10%でしょう」
 これらをすべて合計すると、支出は売上の70%。ワンシーズン2000万円の売上を見込む場合、600万円の利益が残る計算に!

 台風が来れば赤字は必至!それでも生活できるワケは?
50日の営業で利益600万円ならおいしい商売に思えますが、計算通りにいかないのが海の家経営の怖いところ。
「儲かるかどうかは最終的には、天気次第。冷夏で気温が低かったり台風が来れば、稼働日数が減り、売上も激減します。海の家は、ハイリスク、ハイリターンな商売なのです」
 そうなると、海の家だけで1年暮らすのは困難。経営者はどうやって生活している?
「海の家の多くは、地元の民宿や釣舟屋、飲食店の副業。ですから、夏に利益が出なかったとしても、本業で他の季節に稼げるのです」
 もし、海の家だけで生活していこうとしたらハイリスクなのですが、逆に新規参入しやすくなっているという見方も…。
「というのも、最近は夏のレジャーが多様化して海水浴客が減っているため、海の家を閉じる経営者も出てきているのです。それに伴い、地元で独占されていた営業権も地元以外の外部に売り出しているところもあるようです」
興味のある人は、海の家経営を検討してみては?