「激安お酒の秘密」『Big tomorrow』連載第18回(2010年1月号)

特売日に限らず、365日いつもお酒が安い。しかも種類が豊富で、配達無料。お客にうれしい酒店として、いまや大人気なのが“カクヤス”!その安さの秘密とはいったい…


ビール1本から配達OKで、しかも配達料はタダ。なぜ損しないの?
 東京23区を中心に展開する格安酒店のカクヤス。無料配達で人気だが、もともと安いのに、配達までタダで利益は出るの?
「じつは、人件費にその秘密があります」
と語るのは小川孔輔先生。
「カクヤスの場合、店の売上に占める“店員”の人件費は5.5%で、“配達”は4%。つまり売上が100万円あったとしたら、配達の人件費のほうが1.5万円安く済む計算になります」

宅配ビジネスの理想商圏は店から半径1.2キロ!
 なぜ、配達のほうが人件費の効率がいいのでしょう?
「同社の配達件数は、1時間に7件前後。これだけ回れば、配達員の待機時間はほとんど発生しないはず。一方、店頭で同じ数の接客をすると、レジで待っている待機時間が発生します。また、店頭ではお客が自分で商品を運ぶため、一度に買う量が限られますが、配達はまとめ買いが多く、客単価も高め。お客の数が同じ場合でも、配達のほうが待機時間が発生しづらく客単価が高いので、人件費の効率がいいと判断できるのです」
 ただ、この配達効率を維持するためには重要な条件があります。それが、“カクヤスモデル”と呼ばれる半径1.2キロの商圏。
「半径1キロ以下では注文が少なく、店頭と同じように待機時間が発生しやすくなります。逆に半径1.5キロ以上になると、移動距離が長くなって配達の効率が落ちる。ちょうどよい商圏が半径1.2キロだと思われます」
 ちなみにピザのFC店の商圏は、半径1.5キロ。それ以上広いと、短時間で配達するために大勢の配達員が必要になり、利益を圧迫します。カクヤスの1.2キロは、まさに理想的!
「カクヤスのすごさは、半径1.2キロごとに出店して、東京23区内のほぼ全域をカバーしたことだと思います。この戦略により、3年で一気に100店舗を超えました。出店コストは無視できませんが、配達中心のため二等地でよかったこと、廃業した酒屋を居抜きで借りられたことなど、有利な店があったようです」
 また、飲食店などの業務用市場に進出した点も、成功要因の一つではないでしょうか。
「飲食店は一般家庭より単価が高い。そこに目をつけて、飲食店向け食材卸の会社を買収。お酒と一緒に、利益率の高い食材を配達することで利益を伸ばしているようです」

カクヤスが地方都市に進出しない理由とは?
 残念なのは、カクヤスが東京や横浜など一部の地域にしかないこと。なぜ地方にない?
「地方では商圏半径1.2キロの客数が少なく、売上が下がります。あくまでも、人口密集地域の大都市圏だからこそ成り立つビジネスモデルなのです」
 大都市圏で成功した秘密は、物流のネットワークにもあります。同社の倉庫は、大型の物流センター、中継地点となるサテライトセンター、店舗の三層構造。三層構造は、店舗スペースを最小限に抑えつつ、店舗で欠品が出ても素早く対応できることが利点です。
「カクヤスは、これを自社物流で行っています。23区という狭い地域なら自社物流のほうが有利ですが、店舗網を広域にすると、物流のコストがハネ上がる。地域のコンパクトさか、自社物流の秘訣なんです」
 一部では、アマゾンやアスクルと並び称されるカクヤスの配送モデル。今後、マネする業態が増えるかも!?