リード文: 低迷するクルマ業界のなかでも、小型車や軽自動車の売れ行きは比較的堅調だ。だが、低価格のクルマが売れてもメーカーの儲けは高級車ほど多くはない。そこで考えだされたのが…コノ手だった!
安いクルマに人気が集まるなかで、少しでも高いモデルを売るための工夫とは?
クルマは滅多に買わない高額商品。それだけに少しでも安いものを選びたいところだが、一番下のグレードだと少し物足りないと感じる人も多いのでは?
「もしそう考えてワンランク上のグレードを選んだとしたら、メーカーの思惑通りです」
と指摘するのは小川孔輔先生。
「メーカーが売りたいのは、オーディオやパワーウインドウがついた高いクルマ。ただ、それなりに装備がいいクルマが一番下のグレードに位置していると、消費者は上と比較するしかないため魅力が薄れてしまいます。そこでカタログ上は、“グレーモデル”と呼ばれるワンランク下のモデルを比較対象として用意。消費者心理を利用して、本当に売りたいグレードの魅力を際立たせているのです」
この心理は、お寿司屋さんの松、竹、梅と同じ。多くの人は中身も見ずに竹を注文するが、それは「梅よりはマシ」という心理が働くため。店側はそれを見越して、あえて梅をメニューに残しているのだ。
ところがここ数年で、単なるダミーに過ぎなかったグレーモデルにも大きな異変が。
「消費の冷え込みとともに、値段の安いグレーモデルの人気が上昇。メーカーが売りたいのは利幅の大きい高グレードのクルマですが、かつては見せるために作っていたグレーモデルも、いまや大切な収益源。メーカーも以前より積極的に展開しているようです」
クルマを1台売ると、3回儲かる理由とは?
「また、クルマの販売台数が落ち込む中で、注目されているのが整備や純正部品販売などのサービス分野。サービスはディーラーが担いますが、日本の場合はメーカーとディーラーの結びつきが強いため、サービスでかなりの利益が見込めます」
クルマを購入した人が、メンテナンスを正規ディーラーに依頼する回数は平均2回。つまりメーカーは1台売って3回儲けているわけだ。高級車が飛びように売れた時代は、サービスよりクルマ本体を売った利益のほうが断然大きかった。しかし、利幅の小さいグレーモデルが売れる現在、1台当たりの利益はむしろサービスのほうが大きい。
「OA機器メーカーのゼロックスは、コピー機を低料金でリースして、消耗品の紙やトナーで利益を上げました。このように保守や補充品で利益を上げる手法を“ゼロックスモデル”といいます。自動車メーカーも、今後は安いクルマでシェアを確保し、サービスで儲ける戦略を強めるはずです」
ちなみにゼロックスモデルと対極にあるのが、マイクロソフト商法。あとからつけられるブラウザやソフトを最初からタダ同然でつけることで、利益率の高いOSを普及させて成長。本体で儲けるにしろ、保守や補充品で儲けるにしろ、企業がどちらか一方で利益を出すのは難しい時代。消費者も、本体だけでなく、保守や付属品のトータルで商品選びをするのが賢い。