「待ち時間の秘密」『Big tomorrow』連載第30回(2011年1月号)

 「お客を待たせない」というのは、企業にとって大事なサービス。心理的な意味合いもあるが、じつはそれよりももっと重要な理由があることが判明!その驚くべき理由とは、いったい…!?


お客を待たせる時間が1秒長くなると、企業にはどんな影響があるのか?
 注文してから、商品が出でくるまでの待ち時間。急いでいるとき以外はたいして気にはならないが、じつはそれが売上に大きく関わっている。
 実際、マクドナルドでは、商品提供までの時間を1秒短縮するだけで売上が8億円増えるとか。いったいどうして?
「待ち時間が長いと店頭に客溜まり(行列)ができ、急ぎのお客が帰ってしまい、販売機会を失ってしまうのです。また、並んだお客の満足度も下がり、リピート率が落ちる。長い待ち時間は、二重の意味で売上を減らすのです」
 と解説するのは小川孔輔先生。ただ、たった1秒で8億円も差が出るというのは、やや大げさでは?
「マクドナルドの売上は年間約4000億円。売上なら0.2%、客数なら1000人に2人が逃げると、8億円の減収になる計算。1秒の遅れで1000人に2人の客数減なら、十分にありうる話だと思います」
 1秒につき売上が0.2%落ちるくらいなら、たいした影響はないという考えは、非常に危険。1秒の遅れが10秒、30秒…と積み重なって1分になると、売上は12%落ちます。お客の数にすると、8人に1人は減る計算に。モタモタしている間に、お客はどんどん逃げていくのです。

行列は長すぎても、短かすぎてもダメ。いったいなぜ?
 待ち時間は、まさに店頭販売の敵。小川先生のフィールドワークでも次のような調査結果が。
「惣菜販売のロック・フィールドで、お客の行列と購入率を調べたところ、もっとも購入率が高かったのは、レジ1台当たりの待ち人数が1.5人の時でした。待ち人数がそれ以上になると、敬遠して通り過ぎる人が増えました」
 ただ、本来は待ち人数ゼロのほうがいいかず。なぜ1.5人が最適なのか?
「客溜まりには、『行列ができる店はおいしい』という印象を顧客に与えたり、『何の店だろう』と注目を集める効果もあります。だから、人がまったく並んでいない状態もダメ。むしろ、顧客満足度を落とさない程度に行列を作ったほうがいいのです」

牛丼チェーンの券売機に隠された仕掛けとは?
 待ち時間を短縮するには、大きく分けて2つの方法がある。あらかじめ商品を作り置きするか、オペレーションを効率化して商品を出すスピードを上げるかのどちらかだ。
「前者は待ち時間を短縮できても、廃棄のロスが生じやすく利益率が下がります。一方、後者ならオペレーションコストが割安になって利益率も上がります。いかに後者の方法で待ち時間を短縮するかがカギです」
数秒の短縮のために、店舗もさまざまな工夫をしている。
「牛丼チェーンなどに設置された自動券売機は、発券と同時に厨房に注文が表示され、店員が券を取りにくる前に調理に入ることができます。また、回転寿司店などで見かける順番待ち受付システムも、店頭の混雑解消を図る工夫の一つです」
ちなみに、牛丼の吉野屋では、注文してからメニューが出でくるまでの時間を1分以内、ラーメンの幸楽苑では8分を目安にしている。混雑具合によって変動はあるが、企業がこうした目安を設けるのも、待ち時間短縮による売上増の効果が大きいから。まさに“時は金なり”だ。