「葬儀ビジネスの秘密」『Big tomorrow』連載第29回(2010年12月号)

 値段があってないようなのが、お葬式。安く済ませようと思えば質素にできるし、お金をかけようと思えば豪華にもできる。では、イマドキの平均的な料金は、いったいいくら?


“坊主丸儲け”とよく言われるが、実際にはどれだけ儲かっているのか?
 
お葬式の平均費用は242万3000円(㈱くらしの友『現代葬儀白書』2010年版)。高く感じるかもしれませんが、同調査によると、11年前と比べて約3割も下がっているとか。いよいよお葬式にもデフレの波が?
「たしかに、葬儀にかける費用は減少傾向ですが、サービス単価が安くなったわけではありません」
 と解説するのは、小川孔輔先生。
「費用が減ったのは、家族葬儀など控えめな葬儀スタイルが普及して小規模化したから。参列者の数が少なければ、会場費や食事代が抑えられてトータルのコストも下がります。結果として客単価は下がったものの、サービス料金はそう変わっていません」

お葬式と高級クラブの意外な共通点。それは…
 お葬式の料金をわかりにくくしているのが、“葬儀一式いくら”の料金システム。内訳が不透明で、終わった後に予想外のオプション料金を請求されることも。なぜこのようなやり方がまかり通るのか?
「商品やサービスの内訳に価格表がなく、パック料金での販売が中心な業界は葬儀だけではありません。高級クラブ、高すし店、住宅工事。これらの業界に共通しているのは、普通の消費者は一生のうちに何度も利用しないこと。利用回数が少ないと、消費者は相場が想像しにくく、あとから料金が妥当かどうかを検証するもの難しい。なかにはそこを狙い、原価にとんでもない利益を乗せて販売する業者もいるようです。もちろんそうした悪質な業者ばかりではありませんが、消費者にとって不親切な料金体系であることは間違いないでしょう」

読経と院号戒名で55万円 コレって高い?安い?
 料金が不透明という声を受け、最近は葬儀の明朗会計化も進んでいます。ただ、最後の聖域となっているのが、お坊さんへのお布施。料金を尋ねると「お気持ちでけっこう」と受け流されますが、現実には相場があります。流通大手のイオンがHPに、読経+院号戒名で55万円(普通戒名なら25万円)と目安を掲載して物議をかもしましたが、この目安は妥当?
「読経や戒名は宗教行為であり、マーケティング視点で論じるのはそぐわないかもしれませんが、あえて一般のサービスに置き換えるなら、講演料やブランドデザイン料として考えればいい。業界で名の知れたコンサルタントに講演を頼むと、1時間で10万円が相場。また、ブランドのロゴデザインやネーミングをデザイン事務所に頼むと安くても30万円はします。それを考えると、読経と戒名で25~55万円というのは妥当な相場ではないでしょうか」
 それでも高いと感じるのはケチなのでしょうか…。
「僧侶になるのも専門教育が必要。教育に投資した費用を回収できる料金でないと、誰もなり手がいなくなります。そもそも寺社経営は、世間で“坊主丸儲け”といわれるような生易しいものではありません。お寺の世界はフランチャイズに似ていて、本山に上納金が必要。本山が改修すると、末寺の負担が増えて一気に赤字になります。実際、経営に行き詰まったお寺が多く、兼業で生計を立てている僧侶も少なくないとか。そうした実情を見ると、ケチるのはいかがなものかと思います」
読経や戒名などに関する考え方は人それぞれ。さて、あなたの“お気持は”は?