第4回では、スターバックスを取り上げてみた。米国では高価格がひびいて経営はきびしい状況にある。しかし、日本では、強気の店舗展開を継続している。 リード; スターバックスのコーヒーは、なぜ高くても売れるのか?
セルフコーヒー店のツートップであるスターバックスとドトール。消費者は安いほうに魅力を感じるはずだ。だが、コーヒーの価格はスタバのほうが90円高い(下記参照)のにもかかわらず、スタバの人気は高い。なぜか?
「顧客価値の公式にあてはめて考えれば、すぐにわかりますよ」
と教えてくれたのは小川孔輔先生。お客にとっての価値は、商品から直接得られる利益(ベネフィット)と支払い価値(コスト)で決まると思われがちだが、じつは場所やサービスといった第2のベネフィットや、買い物にかかる手間などの第2のコストにも左右される。それらの関係をまとめたものが顧客価値の公式(下記参照)だ。
「スタバもドトールも、コーヒー豆の原価(商品そのものの価値)は大きく変わりません。ドトールのコーヒーは安くても十分に美味しい。それなのに90円高いスタバにお客が集まるには、90円分の価値にお客さんが魅力を感じているからです」
一見、面倒な注文方法がお客さんには楽しい!
では、スタバの魅力とは?
「スタバは自宅でもない職場でもない第3の場所として、ゆったりくつろげる空間と時間を提供しているのが特徴。本屋さんとコラボレートしたり、店内で音楽CDを販売しているのも、ゆっくりと過ごしてもらいたいというメッセージです。お客さんの回転率が高いドトールとは、この点が大きな違いです」
さらにカスタマイズも魅力の一つ。スタバではお客が好みに合わせて温度を調整したり、シロップやソースを追加できる。
「本来、細かく指定して注文するのは顧客にとって負担になりますが、スタバはそれをカスタマイズと名づけることで、面倒な手間を楽しみに転化。ファミレスが飲み物のセルフサービスをドリンクバーと言い換えて成功したのとよく似ています」
一方、同じビジネスモデルでも、本家アメリカのスタバは第2のコストの増大で苦戦を強いられている。
「駅やオフィスビルにある日本と違い、アメリカはショッピングセンターが中心。原油高騰の影響で郊外まで足を運ぶコストが跳ね上がり、結果的に顧客価値が下がってしまいました」
値段を下げることだけが売り上げを伸ばす方法ではない!
日本のスタバのように、第2のベネフィットを大きくして成功している企業は他にもある。
「いま急成長の青山フラワーマーケットは、ドアと冷蔵ケースがない開放的な雰囲気の店舗を展開しています。というのも、花だけでなく、花を買うときのおしゃれな空間と時間をお客さんに楽しんでもらうため。これもまさしく第2のベネフィット狙いです」
売り上げを伸ばそうとすると、値段を下げることばかりに意識が向きがちだが、それにも限界がある。むしろ高く売るために、付加価値をつけるのが正解という好例だ。
<値段に含まれている要素>
顧客価値=(特定商品の価値+その他のベネフィット 場所・サービス)
÷(支払い価値+買う時間と努力)
ドトールとスターバックスの値段を比べると…
店 サイズの値段(円)
S M L
ドトール(ブレンドコーヒー) 200 250 300
S T G V
スターバックス(本日のコーヒー)290 340 390 440
どのサイズも、スターバックスのほうがドトールより90円高い。コーヒー豆の原価に大きな差はないため、90円はゆっくりくつろげる空間や時間へのチャージ代金と考えるべき