「ワンプライスの秘密」『Big Tomorrow』連載第2回(2008年10月号)

連載第2回には、わたしの好きなユニクロ、ハニーズ、無印が登場する。“値段が1つ”だと買いやすいワケは? リード: モノを作ってから値段を決めていては、このご時世ではまったく売れない。勝ち残るにはひとひねりした、値段のつけ方が必要だ。競争に強い企業の値段設定の秘密を紹介しよう!


ユニクロ、無印良品、眼鏡市場。これらの店の共通点は、プライスライン(価格帯)が狭いこと。ショッピングの醍醐味は、たくさんのデザインや価格帯の中からお気に入りの一品を選ぶことにあるはず。にもかかわらず、価格帯が狭い店のほうが繁盛するのはなぜ?
 「マーケティングの教科書には、消費者の多様なニーズに合わせるべきと書いてありますが、それが必ずしも正解とは限りません」と、小川孔輔先生は解説。
 「プライスラインがいくつもある店では、消費者は商品ごとに品質と価格を比べて検討する必要があります。その負担をマーケティング用語で『コスト・オブ・シンキング』といいますが、ユニクロや無印良品などは、価格帯を狭くすることで消費者の考えるコストを軽減。つまり、お客を迷わせないワンプライス(値段が1つ)が人気の秘密なのです」
 さらに絶妙なのは価格設定です。いくらわかりやすくても価格が高ければ手が出ませんが、そうした店の多くは、思わず商品に手が伸びる値ごろ感のある価格で統一。
 「普通は商品を作ってから原価にいくら利益を乗せるのか決めますが、ワンプライス店は、まず価格を決めてから利益を出すための原価を計算し、その範囲で商品を作る。通常と逆の手順で商品開発をするので、値ごろ感のある価格設定になるんです」
タテに長く積み上げられた陳列スタイルにも理由が!
 では、それらの店はどうやって原価を下げているのか。アパレルを例に説明しましょう。
 「ユニクロの特徴は品種の絞込みです。品種が増えればそれだけ生産や販売のコストがかさみますが、ユニクロは同じデザインの商品を大量に作り、カラーでバリエーションをつけている。色を変えるだけなら追加コストはほとんどかかりません」
 商品の陳列にも工夫があります。デパートが多様な商品をヨコに並べるのに比べ、ユニクロは同じデザインの商品をタテに長く積んで陳列しています。
 「タテ型陳列は消費者にわかりやすいだけでなく、販売員にとっても管理がラク。服をたたんで元に戻すときも、いちいち棚を探す手間がかかりません。こうしたオペレーションの効率化もコストを下げる一因です」

 オペレーターによる商品開発で低コストを実現!
 ただ、同じプライスラインを絞った衣料品量販店でも、ハニーズやしまむらといった企業はデザインが多種多様。デザインが増えればコストのかかるはずですが…。
 「ハニーズは、過去のデザインパターンをデータベースにして、シーズンごとに流行を取り入れて微調整。デザイナーではなく、オペレーターがデザインすることで商品開発のコストを下げています」
 一方、しまむらはSPA(製造小売業)ではないので生産過程の工夫はできませんが、
「売れ行きの悪い商品を別の店舗に運ぶ“転送”で売れ残りを減らしています。同社の在庫ロス率は、なんと0.58%。200着仕入れて1着しか廃棄しない計算です」
 いずれにしても、徹底したムダの排除が、値ごろ感のある価格実現のカギです。

<価格帯の比較・チノパン(メンズ)の例>
ユニクロ(新宿三丁目店) 1,990円
             2,990円
無印良品(新宿店)    1,900円
             2,990円
             3,675円
             4,095円
伊勢丹(新宿メンズ館)  14,700円
             16,800円
               ¦
             29,400円
             39,900円

小売店による価格帯の違いを調べた。ユニクロは2つ、無印良品は4つ。伊勢丹は14,700~39,900円の10の価格がかった。百貨店は、さまざまなブランドから“商品を選ぶ楽しさ”を提案する販売スタイルのため、価格帯に幅があるといえる