「タクシー業界の秘密」『Big tomorrow』連載第59回(2013年6月号)

 日本交通、日の丸交通、グリーンキャブ…。タクシー会社は数多くあるが、初乗り料金はほぼ同じ。距離に応じて運賃は高くなるが、値上がり率もほとんど同じ。こうした横並びの料金体系のなかで儲かる、儲からないはどこで差がつくのか?


他社と差別化を図って顧客を獲得しようとするタクシー各社の戦略とは? 東京23区のタクシーは初乗り710円。どのタクシーに乗っても同じ運賃なのはなぜ?
「タクシーの営業は認可制。運賃も地域ごとに上限運賃と下限運賃が決められています」
と語るのは小川孔輔先生。なかにはMKタクシーのように格安運賃で営業するタクシー会社もありますが、範囲外の運賃には個別審査が必要。ほとんどの会社は国交省が定めた運賃で営業しています。ただ、値決めは会社の利益を左右する重要な要素。そこを自由にいじれないとすると、どうやって利益を増やしたら?
「手っ取り早いのはコストの圧縮です。経費として大きいのは車両費、ガソリン代、人件費。が、タクシー会社はすでに経費を限界まで切りつめているので、これ以上のコスト削減は難しいところまできています」
 それを検証するために、まず人件費を見てみましょう。タクシー運転手の給料は、歩合制が基本。会社によって異なりますが、多くの場合、運賃の5~6割が運転手の取り分です。一般的な勤務形態は、1回20時間の隔日勤務。月10乗務、1乗務で4万円の売上があるとすると、総売上は40万円。運転手の歩合が6割なら、月24万円で、年収288万円。
 個人差はありますが、タクシー運転手の給料は総じて低め。人件費は、すでにぎりぎりに抑えられています。

流して客を拾うのは非効率⁉ 配車アプリで稼働率をアップ 勝手に値決めができず、コスト削減も限界に。残る手段は?
「車の稼働率を上げるしかないでしょう。町を漠然と流したり、タクシー乗り場で客待ちしていても、アイドルタイムが発生して稼働率が高まりません。好調なタクシー会社はそのことに気づき、お客を“待つ”戦略ではなく、“作る”戦略へと転換しています」
 具体的な動きとして注目したいのは、配車アプリの提供。お客さんにスマホで呼び出してもらえば、待ち時間も減少します。
「従来は電話で呼び出していましたが、タクシー会社の電話番号がわからなかったり、雨の日は話し中でつながりにくいなど、有効活用されていませんでした。が、アプリならオペレーションも簡略化できて、コスト削減にもなる。スマホによる配車は全体の1割に達しているほどで、今後はさらに増えるでしょう」

キッズや介護専門タクシーも新サービスで市場を開拓!
 付加価値の高いサービスと組み合わせることも、お客さんを作る戦略の一つです。
「観光地に行くと、運転手さんがガイドをしてくれる観光タクシーがあります。こうしたサービスと組み合わせると新たな顧客の開拓になるし、予約制にしてアイドルタイムを減らすこともできる。他にもが続々と登場しています」
 たとえば日本交通は、子どもの送迎に特化したキッズタクシーや、介護の資格を持つ乗務員が送迎するケアタクシーなど、多彩なサービスを展開中です。
「許認可産業であるタクシー業は長い間、国に保護されてきました。しかし、今後はそれではやていけない。料金やコスト面で独自色を出すことが難しい以上、これからはサービスの差別化が鍵になるはずです」