売れない時代にどうやって売るか?いま企業の間では、嗅覚を使った新たなマーケティング手法が注目を集めている。商品のニオイと売上の意外な関係を探った!
人はニオイで商品を嗅ぎ分けていた!では、売れるモノのニオイとはいったい…
スーパーの店先で売っている焼き鳥や焼きイモ、パン…。そのほとんどが、香ばしいニオイのするモノばかりです。
それにはある理由が…。
「店先でいいニオイがすると、店内の売上が増えるんです」
と解説するのは小川孔輔先生。
「おいしそうなニオイが漂うと、お客さんは食欲を刺激されて他の商品にまで手を伸ばします。スーパーは屋台から出店料をもらっていますが、狙いは賃貸収入よりも集客効果。だから、わざと香ばしいニオイのする屋台を選んでいるのです」
“アバクロ”のジーンズが売れる驚くべき理由とは?
たかがニオイとは侮れません。江崎グリコは今年3月、「塾カレー」のプロモーションのために、スーパーに香りを発生させる装置を設置。装置を置いた店舗とそうでない店舗では、売上が約1.5倍も違ったとか。
同様に「ジャイアントコーン」というお菓子の棚の上に、商品と同じイチゴの香りが出る装置を設置したところ、売上が約3倍伸びたそうです。
「食品の売上がニオイに左右されるのは当然の話。いま企業が注目しているのは、こうしたニオイによるブランディングです」
これまで企業は、2つの知覚を利用してブランドを認知させてきました。
1つは、ロゴや商品デザインなど視覚(見た目)によるブランディング。たとえばコカ・コーラなら赤、ペプシなら青というように、ブランドカラーを作って他との差別化を図ってきました。
もう1つは、聴覚。ヒット曲とタイアップしてCMを作ったり店内でジングルを流すのも、耳を使ったブランディングです。
「従来は“目が8割、耳が2割”といわれていましたが、最近は目と耳だけでは商品の差別化が難しくなってきました。そこで第3の知覚として、鼻(嗅覚)によるブランディングが登場したわけです。日本にも出店している人気ブランド『アバクロンビー&フィッチ』は、ジーンズに独自の香料を使っています。ファッションに敏感な若者は、そのニオイを嗅いだだけでアバクロであることがわかるといいます。フォーチュン誌が選んだトップ1000企業のうち、なんと8割がニオイによるブランディングをすでに実施していました。いずれ日本でも本格化するでしょうね」
バラのいい香りをつけたら売上が落ちた。一体なぜ?
ただし、何でもニオイをつければ売れると考えるのは、安直。
「ある海外の床用洗剤のメーカーが、薬品的な刺激臭がする自社製品をバラの香りにリニューアルして売り出しました。すると、売上が逆に27%も落ちてしまったんです。薬品臭とバラの香りを比べたら、当然バラのほうがいい香りです。しかし、実際は、薬品的な刺激臭が『いかにも汚れが落ちそう』というプラスのブランドイメージに結びついて、売上に貢献していたわけです。だから、必ずしもいいニオイが購買につながるとは限りません。商品の特性と香りがいかに合っているか。それがニオイ・ブランディングのコツです」
とくに見た目や中身がリニューアルされていないのに、なぜか最近、つい買いたくなる。そんな商品があったら、もしかしたらあなたを虜にするニオイがつけられたのかもしれません。
身近なモノのニオイ、改めて嗅いでみてください。