[埼玉発祥企業の秘密」『Big tomorrow』連載第43回(2012年2月号)

 不況でも業績が好調な会社というと、カリスマ社長がいたり、破天荒な戦略だったり…と、際立った何かがある。が、今回取り上げるのは、ちょっと違う。ごく普通の社長で、商品の値段も平均的。では、躍進の秘密はいったいどこにあるのか?


「ヤオコー」「しまむら」「日高屋」…が元気な理由は、意外なところにあった!
 食品スーパー「ヤオコー」、総合衣料品チェーン「しまむら」、ラーメンチェーン「日高屋」。これら3社の共通点はいったい何だと思いますか。どこも業績はきわめて好調ですが、共通点はそれだけではありません。じつは3社とも“埼玉県発祥”の企業なのです。
 どうして埼玉発の企業が元気なのか。その理由はいくつかあります。
まず考えられるのが、「半径80キロ理論」です。埼玉全域は東京から80キロ以内。これは高速なら約1時間で行ける距離であり、東京発の最先端の流行を肌でつかめます。また、80キロエリアは都内に勤務する人々のベッドタウンであり、人口も十分。小売業には絶好の条件が揃っています。
 本社所在地が物流の要衝だったことも忘れてはいけません。埼玉は関越・上信越・東北・常磐の各高速自動車道に直結しています。また、東北、上越、長野新幹線は、実質的に埼玉県を起点に走っています。いわば埼玉は「扇の要」。流通業が全国展開するとき、本社(倉庫)が要の位置にあることは大きな強みになります。
 埼玉県がよい意味で適度な田舎町であることも見逃せません。埼玉は、「すごい都会」でも、「ド田舎」でもなく、そこに住む人の生活感覚は、「ごくふつう」です。たとえばファッションセンスひとつとっても、かっこよすぎずダサすぎず、よい意味で全国に通じるものがあります。だから埼玉で成功すれば、全国どこでも受け入れられる可能性があるのです。

全国に受け入れられる「ほどほどさ」
 最後に紹介したいのが「ほどほど理論」。埼玉県民は、総じてあまりガツガツしていません。
それは会社の成長率を見てもわかります。普通は少し調子がよくなると、年率30%や40%の成長を目指して組織的に無理を重ねるものです。しかし、急に出店を増やしたものの人材が追いつかず、命取りになりがちです。一方、冒頭に挙げた3社は、年率10%程度の成長を長期間続けています。その背景には、「ほどほどが一番」と考える埼玉の県民性があるに違いありません。
 それを裏付けるデータをご紹介しましょう。帝国データバンクによると、出身地別の社長輩出数(対人口比)で全国最下位だったのは埼玉県でした。トップに躍り出て目立つことを嫌う埼玉県民の性格が、如実に表れていますよね。
よく考えてみると、埼玉出身の「カリスマ社長」はあまりいません。冒頭に紹介した埼玉発企業の経営トップも、総じて協調性が高く温厚です。激動の時代においては、そうしたトップがいる会社のほうが荒波を力強く乗り越えていけるのかもしれません。