「廃棄の秘密」『Big tomorrow』連載第62回(2013年8月号)

 「捨てるくらいなら、安く売ればいいのに…」廃棄された弁当や生花を見て、そう思ったことない?じつは…商品によって、安く売ってもいいモノと安く売ってはいけないモノがある。いったいどういうこと?お客が知らない“廃棄”のウラ事情を取材した!


もったいないけど、捨てざるを得ないホントの理由とは?
 お弁当や切り花などの生モノは売れ残ると廃棄処分しますが、捨てるくらいなら、最初から仕入れを減らせばいいと思ったことはありませんか?
「仕入れを減らすのは愚策。スーパーやコンビニは、わざとロスを出しているんですよ」
と語るのは小川孔輔先生。
「仕入れを減らして売り切れ状態になると、買いたいお客さんがいても商品がないという販売機会の損失になるからです。また、品切れの棚は見た目が寂しく、お客さんが寄りつかなくなる。お客さんが来なくなると、商品は売れ残るという悪循環に陥ります。逆のサイクルを作るには、売れ残りを覚悟してあえて多めに仕入れ、つねに棚を埋めておく必要があるんです」
 在庫切れを起こさないように配慮すると、ロス率はどうしても高めになります。
「たとえば生花のロス率は、スーパーで10%、専門店で20%前後(廃棄商品だけでなく、値引き商品の値引き分も含む)。専門店のロス率が高いのは、定番以外の珍しい花を置いているから。逆にいうと、ロス覚悟で珍しい花を置くからこそ、専門店はスーパーよりも優位性を発揮できるのです」

コンビニのお弁当の値段には売れ残りの分も含まれている!
 とはいえ、売れ残りが多いと利益が圧迫されるのでは?
「ロスの量は予測がつくので、最初からそれを織り込んで値段決めをします。ですから、多少のロスは問題ありません」
 具体的に計算してみましょう。コンビニのお弁当のロス率は約15%で、平均して7個に1個が売れ残ります。7個完売して売上3000円を確保するなら、本来は1個430円でいいはず。
でも、いつも6個しか売れないとしたら、売上3000円を確保するために1個500円で売らないといけません。
つまり、ロスを織り込んで1個あたり70円高く売られているわけです。
 ただ、価格を上乗せすると商品が売れなくなる恐れも…。値段を高くせず、かつロス率を減らす方法はないのでしょうか?
「あります。鮮度管理を徹底することでロスは減らせます。あるお花屋さんでは、『お客さんがお花を買って5日以内に枯れてしまったら、新鮮なお花と交換する』という日持ち保証を始めました。交換が多いと損するので、早く仕入れたものから重点的に売ることを徹底したところ、ロス率が激減。仕入れを減らしてロスをなくすより、鮮度管理をやったほうがはるか儲かったのです」

生モノよりもロス率が高い意外な商品とは?
廃棄は、生モノだけに限りません。小川先生によると、「ロス率が高いのは衣料品」だとか。
「ファッション性の高い商品は、シーズンを過ぎると売れなくなり、翌年に持ち越すことができません。そのため、通常はシーズン終了前にバーゲンを行います。標準的な店だと、正価で売れるのは5割。売れ残りを半額で処分するので、50%×50%でロス率は25%にも及ぶと言います。バーゲンでも売れ残り出るので、実際のロス率はそれ以上の店もあります」
 では、流行に左右されない定番商品を中心に売ればいい?
「大量の持ち越しが発生すると、在庫管理のコストがかかるうえに、翌年度の生産計画の変更を余儀なくされ、サプライヤーとの関係にも支障が出ます。定番商品を中心に展開している無印良品が、2001年に過去3年の持ち越し在庫38億円分の衣服・雑貨を焼いて処分した例もあるほど。定番商品でもロスは生じるのです」
「捨てるくらいなら、安く売ればいいのに」と思いますが、そうすると正価の定番商品が売れなくなり、売上が激減。企業にとって廃棄は苦渋の選択なのです。」