「美容室の秘密」『Big tomorrow』連載第36回(2011年7月号)

 男性が髪を切る頻度は、ひと月半に1回くらい。ちょっと伸びた程度では、「もう少しガマンしよう」と、カット代をケチったりする。それもそのはず、美容室は床屋に比べてちょっと高いから。高くてもお客が離れない理由。それは…。


美容室と理容室はどっちが儲かる?意外と知らない業界の謎に迫る!
 美容室も理容室も同じ国家資格。でも、美容室は床屋より高い。いったいなぜ?
「美容室の客単価は1万円前後。それに対して、理容室は3~4000円。この開きは、そもそも美容室と理容室では、ビジネスモデルが違うからなんです」
と解説するのは小川孔輔先生。
「どちらも基本的なカット料金はそう変わりません。が、美容室はオプションの種類が豊富。お客さんが好みでトリートメントやパーマ、カラーリングなどを追加できるため、客単価が上がるのです。また、物販も大事な収益源。美容室で扱っているシャンプー剤やヘアケア製品は、市販のものより若干高め。それでも品質のよさについ手が伸びてしまいます。つまり美容室は、個人のニーズに合わせた高付加価値を提供するプレミアム戦略といえます」
 一方、理容室はどうか。
「理容室は美容室に比べてメニューのオプションが少なく、物販も少なめ。サービスを標準化させて、低価格で提供するディスカウント戦略です。象徴的なのは、パーマやカラーリングなしでカットのみを提供する駅前の1000円カット店。美容室とは明らかにビジネスモデルが違うことがわかるはずです」
 美容室と理容室では、商圏の広さも異なります。理容室は原則的に地域密着型。一方、美容室は広範囲で、わざわざ電車に乗って髪を切りに行く人も。
「それは、お客が店ではなく美容師についているからです。一般的に、理容室では切る人を指名することができませんが、美容室は指名が当たり前。技術レベルによって料金も違う(右下表参照)。ここでもプレミアム戦略が徹底されているわけです」
 ただ、美容室のスタッフ全員が高給というわけではありません。
「美容室はチーム分業制で、1人のお客さんにたくさんのスタッフが関わります。そのため客単価は高くても、従業員1人あたりの単価は高くない。また、カリスマ美容師になれるのはごく一部で、従業員の離職率は高め。結果的に若いスタッフが中心になり、人件費は低めに抑えられがちです」

町の理容室は廃業の危機 生き残りの秘策はあるか?
 それなら理容師になったほうが儲かりそうですが、事業所数は過去5年で、理容室が約6.5%減なのに対して、美容室は約2%増加(平成21年経済センサスー基礎調査より計算)。本当に儲かるのはどっち?
「オーナーになるなら美容室でしょう。美容室の増加は、おしゃれにこだわりを持つ男性客が理容室から乗り換えたため。今後もこの傾向は続いて、顧客を奪われた町の理容室は苦戦しそう。1000円カットのように安さに特化しないと生き残りは難しいかも」
みなさんは美容室と理容室、どっち派?

美容師の技術レベル別料金
セレクトアートディレクター(国内外の撮影やヘアショー講師、または店長、オーナー、スタイリスト) 2500円
アートディレクター(社内外の講師、または店長、オーナー、スタイリスト) 2000円
サロンディレクター(多くのお客様に支持され、リピート率の高いスタイリスト) 1500円
トップスタイリスト(社内テクニカルテストに合格しているスタイリスト) 1000円
スタイリスト(社内テストに合格しているスタイリスト) 500円
※美容師は技術レベルによって指名料金が異なる。この違いが、美容師の技術向上の励みにもなっている。協力:HAIR&MAKE EARTH 技術料は2011年4月時点での渋谷道玄坂店の例