「下取りセールの秘密」『Big tomorrow』連載第26回(2010年9月号)

 スーツや靴、家電など、いまやさまざまな分野で行われている下取り。自動車など中古市場のある商品なら、買取価格に利益を乗せて再販売すればいい。が、ボロボロのスーツでは儲からないのでは?


スーパーや衣料品店は、なぜ下取りセールを行うようになったのか?
「最近の下取りセールは、再販売が目的ではありません」
と語るのは小川孔輔先生。
「小売店が不用品を買い取る目的は買い替え促進です。不景気で、いますぐ買い替えなくてもいい商品(耐久財)は、あらゆる分野で買い控えが起きている。買い替えてもらうには、まず家庭内の商品を処分してもらわなくてはいけません。そこで下取りをきっかけに処分を促しているのです」

スーツ約2万円の割引でも赤字にならない理由とは?
大手スーツチェーンでは、下取りに出すと2万1000円の割引券がもらえるキャンペーンも(右下の表参照)。もし下取りで買い替えが進んでも、こんなに割り引くと、むしろ売り上げが減るのでは?
「カギになるのは、2万1,000円の割引が適用されるのは3万1500円以上の買い物をしたときに限るという条件です。割引の恩恵を受けようと思ったら、必然的に高いスーツを買うことに。おそらく店は割り引いても客単価が下がらないように、割引額を設定しているはずです。赤字の心配もありません。衣料品SPA(製造小売)の粗利益は約5割。高額商品ほど粗利益率は高くなるので、4~5万円前後のスーツを買ってもらえば、2万1500円割り引いても十分に黒字になるはずです」
 むしろ下取りで客単価は上がる可能性が高いといいます。
「なぜなら『高いものを買っても、また下取りしてもらえばいい』という心理が働くから。たとえばいままで2万円のスーツを買っていた人も、『5万円のスーツが3万円で買えるなら』と、より高い価格帯の商品に手を伸ばしやすい。さらに忘れてはいけないのが“ついで買い”です。スーツを新調すれば、それに合ったシャツやネクタイが欲しくなるもの。買い替えのたびに小物が売れるので、トータルの売上はさらに増えます」

リサイクル・リユースなら買い替えの罪悪感もなし! 
気になるのは、下取りされた商品の行方です。
「スーツの場合、自動車部品などの素材として再利用されるケースが多いようです。そごうや西武が行った子供靴下取りキャンペーンでは、発展途上国に寄付したケースもあります。どちらにしても、下取りした商品で直接利益を得るという発想ではありません」
 じつはエコや社会貢献は、下取りセールの重要なキーワード。
「環境を意識すれば、本来、買い替えをせず長く使うのが一番いいはずです。ただ、それでは企業の利益は減るばかり。そこで下取りしてリサイクル・リユースを打ち出せば、消費者のエコや社会貢献のニーズを満足させたうえで売上を伸ばすことができます。消費者とお店のどちらにとってもメリットがあるのが、最近の下取りセールの特徴なのです」
 下取りセールは、市場が縮小する時代の救世主かも!?