「仮想コインの秘密」『Big tomorrow』連載第64回(2013年10月号)

 ポイント、おまけ、割引…。販売促進の方法はさまざまあるが、最近では、独自に“コイン”を発行する企業が増えてきている。従来の販促ツールとは何がちがうのか?


自社サイトを使って顧客を集める新たな手法は、どの程度効果がある?
 いま独自のコインを発行する企業が増えていることをごご存知でしょうか。
ANA(全日空)のコミュニティサイト「ソーシャル・スカイ・パーク」では、テーマに合わせて投稿すると、ANASKYコインが25~100コインもらえる仕組み。集めたコインは航空券やツアー商品の支払いに利用可能(10コイン=10円。10コイン単位)。右下の表にあるように、他のさまざまな企業が仮想コインを発行しています。
 お金のように使えたり賞品と交換できる点では、従来のマイレージと変わりません。すでにマイレージがあるのに、なぜ企業はコインを発行するのか。小川孔輔先生はこう解説します。
「コインやマイレージは、広い意味でおまけの一種。おまけを分類すると、なぜ企業がマイレージとコインの両方をやるのかがわかります」

マイレージとコインは、似ているようでココが違う!
「懸賞や付録、ポイントなどのおまけは、次の3つの観点から分類できます」(小川先生)
 まず1つ目は、「即時型」か「延期型」か。即時型は、アイスの当たりくじのようにその場で得するもの。延期型は、スタンプサービスのように継続して貯めたら得するおまけです。マイレージもコインも延期型です。
 2つ目は、「付加価値型」か「値引き型」か。付加価値型は、プレミアムグッズがもらえるなど、プラスアルファで得するもの。値引き型は、その会社の商品やサービスを本来の価格より安く、あるいはタダで提供してもらえるもの。マイレージもコインも値引き型です。
 3つ目は、「オープン型」か「クローズド型」か。オープン型は、誰でも応募できるもの。クローズド型は、一定の条件を満たした顧客などを対象に行うものです。
「マイレージは飛行機に乗ったり買い物をした人を対象にするクローズド型ですが、コインは誰でも利用できるオープン型。クローズド型は、顧客になった人に顧客でいてもらい続けるのが目的。それに対してオープン型は、まだ利用していない人と接点をつくるのが目的。つまりANAは、既存顧客の囲い込みのためにマイレージ、新規顧客開拓のためにコインサービスを展開しているのです」
 ANAのコインはSNSの発信で獲得できるのも特徴です。1回のお題に寄せられる投稿数は約6000件。投稿者1人あたりのフォロワーが50人とすると、約30万人に情報が広がる計算です。

SNSを利用した販促は、視聴率2%のCMと同じ!
「情報が届く人数でいうとテレビCMにもひけをとらないでしょう。首都圏は1400万世帯なので、視聴率2%なら視聴者は28万人。コインは、それと同じくらいの訴求力がある」
 情報が伝わる人数は同じでも、コストは格安です。
「6000件の投稿にANAが100コイン付与すると、60万円分のおまけを出したことになります。自社の航空券やツアー商品を割引する値引き型なので、原価は1/3程度。約20万円で首都圏にテレビCMを流せると考えれば、広告代ははるかに安い。また、SNSは自分の知人から情報が届くので、テレビよりも訴求力は高い」
 SNSを使った仮想コインは、企業にとって破格の宣伝。今後も広がる可能性大です。