「100円寿司の秘密」『Big Tomorrow』連載第1回(2008年9月号)

月刊誌『Big Tomorrow』の連載「気になる値段のカラクリ」が好評だそうで、来年2月までの予定が、さらに先に延びることになったらしい。第1回(9月号)は、『百円寿司のひみつ』であった。インタビューを順次紹介していくことにする。 リード: 物価が上がっても100円のままでやっていけるワケは?


漁船の燃料の高騰でネタの値上がりが懸念される寿司。とくに回転寿司は100円の皿が消えてしまうのでは、との不安も…。
 「大丈夫。回転寿司はウニやイクラで儲けられるから、100円の皿がなくなることはないでしょう」と秘密を教えてくれたのは、マーケティングのエキスパートである法政大学の小川孔輔先生。 
 ウニやイクラは原価が高く、今後はますます利幅が薄くなりそう。だったら、原価が安いコハダやサバを多く売ったほうが、儲かりそうな気がしますが…。
 「100円を謳っている回転寿司であっても、ウニなどは例外的に400円程度で売られています。お客さんもさすがに、100円のネタだけ食べて帰る人は少ない。たいてい、100円のネタを4~5皿、400円のネタを1皿は食べる。このくらいの割合で儲かるよう利益を設定しているんです」
 計算してみよう。原価20円のコハダを1皿100円で4皿売ると、粗利益は320円。
原価70円のウニを1皿400円で売ると、粗利益は330円。たった1皿でも粗利益は上回ります。
 「このように粗利益の高いものと低いものを混ぜて販売する手法を、マージンミックスといいます。粗利益の低い商品でお客さんを呼び込み、粗利益の高い商品で儲けを出す。回転寿司ではこれがやりやすい。だから儲かるんです」

 人件費を低く抑える大手ならではの方法
 回転寿司が儲かる理由は他にもあります。
 「チェーン店では、規模の大きさを活かして食材を半値以下で仕入れます。ネタの1本買いや船買いは当たり前。ただ、一貫あたりの値段が安いぶん、原価率は高くなります。一般の握り寿司店(中規模)の平均原価率は30%ですが、回転寿司は50%前後」
 それをカバーするのが合理的なオペレーションシステムです。
 「一般の握り寿司店は、板前さんがメモを取って勘定をつける。一方、回転寿司は最後に皿の枚数を数えるだけ。回転寿司も客前で板前さんが握ることがありますが、たいていは厨房でパートが機械で作っている。こうした徹底した合理化で、店舗運営の費用を下げているのです」

 食材の高騰に対応するもう1つの手 
 また、1皿100円というワンプライスにもメリットが…。
 「値段がバラバラだと原価や在庫の管理が複雑になりますが、回転寿司は値段が統一されている。だから原価計算や発注もシンプルで手間がかかりません」
 100円を変えないのは、値ごろ感をキープするだけでなく、管理コストを上げない工夫でもあったのです。
 ただ、ここで疑問が…。値段が据え置きでは、いくらマージンミックスや管理コストの低減を狙っても限界があるのでは?
 「その問題の答えは簡単。ネタを薄くし、シャリを小さくして利益を調整するんです」
 一貫のサイズが小さくなれば、満腹感を得るのに1皿多く食べてしまう。値段が変わらなくても皿が増えるから、結局は店が儲かることになるという計算。なるほどという結末です。

<原価率の比較>
回転寿司     原価50% 人件費23% その他の経費21% 営業利益6%
一般の握り寿司店   30     30        20      20

回転寿司は、原価は安いが値段も安いぶん、平均的な原価率は高くなる。そのため、機械化と合理的なオペレーションによって人件費を下げている。営業利益率は一般の寿司店より低いが、お客様の回転率で利益額を稼いでいる