「H&Mの秘密」『Big tomorrow』連載第67回(2014年1月号)

 1アイテムを2週間ほどで完売させ、在庫を持たない。売り切れても再生産はせず、次々と新商品を投入する。―こうした独自の戦略で世界的に売上を伸ばしているアパレルブランドのH&M。いったいなぜ、こんな売り方が可能なのか?


2008年の日本進出以来、若い女性の心をつかみ一大ブランドに成長。その人気の秘密とは?
 日本を代表するアパレルブランドであるユニクロは、いまや売上1兆円になりました。しかし、世界にはもっとすごいブランドが。スウェーデン発の「H&M」は、売上高約1.7兆円(2012年)でユニクロを大きく上回り、前年比110%と現在も成長中。多くのブランドがしのぎを削るなかで、どうして成長を続けられるのか?
「H&Mは生産コストを抑えているから、利益率が高いんです」
と語るのは小川孔輔先生。
「H&Mは製造から小売りまで手がけるSPA。しかし自社で工場は持たず、アジアを中心とした世界中の協力工場で商品を作っています。工場は、商品ごとに入札を行い、もっとも安い工場を選定。だから低コストで商品を作れるのです」

なぜ売り切れても追加で入荷しないのか?
 入札でコスト削減できるなら他社でもマネしそうですが、先生は「どのブランドでも入札方式がいいわけではない」と指摘。
「H&Mのようにファッション性を重視するブランドは、小ロットずつ商品を生産するのが基本。商品の寿命も短いので、商品ごとに入札する方式が合っています。一方、ユニクロのように定番商品を大量に作るブランドは、リードタイム(工程に着手してから完成までの時間)が長く、工場のラインをある程度長期間、押さえなくてはいけません。そうなると商品ごとに入札させて、その結果に合わせて工場を変えるというやり方は難しい。入札にこだわらなくても、計画的に材料を調達することでコストダウンが図れるのです」
 ユニクロのように、かなり前から商品開発や製造の準備をするブランドは、流行の予測が外れるとたいへんなことに。イチかバチかの要素があるため、「投機型」と呼ばれます。一方、H&Mなど短リードタイムで商品開発や製造をするブランドは、流行を見極めてからスタートするので「延期型」と呼ばれます。「投機型は、在庫がだぶつくと値引きや追加発注量を減らすことで調整します。一方、延期型は小ロットしか生産せず、売り切れ御免で販売するので、そもそも在庫のロスが少ない。どちらが有利と一概には言えませんが、H&Mは後者を代表するブランドといえます」

日本で売上を伸ばすための今後の課題とは?
 世界では躍進を続けるH&Mですが、小川先生は「日本でもトップブランドになれるかどうかは未知数」と話します。
「H&Mは服以外にも、アクセサリーや帽子、靴などフルラインナップでアイテムをそろえています。それが人気の要因の一つですが、フルラインナップだと店舗面積が大きくなり、出店コストもかかります。都市部の店は商圏が広いので回収できるかもしれませんが、これから地方に出店した場合にどうか…」
 他のファストファッションブランドに比べて価格が比較的高めに設定されている点も気になるところ。
「日本ではブランド力があるので価格を高めに設定しているのでしょう。ただ、入札方式で安く作れる工場ばかりを選んでいると、品質管理でつまずくおそれがあります。日本の消費者は品質に厳しい。実際、2013年のJCSI(日本版顧客満足度調査)でも、H&MはアパレルSPA14ブランド中、11位でした。日本で市場を取りに行くなら、価格と品質のバランスが課題になってくるはず」
 日本での今後の展開には引き続き注目です。