7月の課題図書は、奥田さん(山形在住のシェフ)の『人と人をつなぐ料理』だった。感想文では4編が優秀作で、シールを二枚獲得している。全4編をブログにアップする。4編が「A++」をもらえるのは、結構めずらしいことだろう。
「人と人をつなぐ料理 ~日本を元気に~」
学籍番号:11FXXXX 氏名:佐藤眞実 ゼミID:3705
「日本を元気にする」という言葉は、東日本大震災以来とてもよく聞くワードであります。本書では、地域の活性化を、生きていく上での源である“食”を通して行うことが書かれています。これは、一見、誰もが思いつきそうなことですが、実際に在来種の作物に注目したり、生産者とのつながりを大事にしたり、風土や畑をみて調べたりなど、その努力や強い気持ちに驚きました。
「美味しいものを食べると、心に灯火がともる」という著者の奥田政行シェフの言葉はまさにその通りで、悲しいときや疲れているとき、食は心を癒してくれる大切な要素となります。日本の人が元気になれば、日本は元気になる。人と人とがつながることでたくさんの人に元気の連鎖が生まれていく。本書を読んで、「つながり」のもたらす陽のエネルギーを感じ取ることができました。
奥田シェフが庄内地区の活性化を進めることができた理由の一つに「在来野菜」が挙げられます。
在来野菜は地域の地野菜です。私の地元である鎌倉には「鎌倉野菜」があり、畑では主に露地栽培で少数多品目の野菜が育てられています。直売所である「鎌倉市農協連即売所」は幼い頃から『野菜市場』として祖母と一緒に訪れていました。良く食べるものはトマトで、味が濃くて、みずみずしくて、とても美味しいです。地野菜の魅力は、新鮮さ、その地でしか味わえない希少価値であるように思います。アル・ケッチャーノで新鮮な食材がベストな調理法で料理されているというのも、地野菜の魅力を最大限に食べる人に伝えるという精神が素晴らしいからだと感じます。
本書で取り上げられている地野菜は、ただおいしいと感じられるものだけではありません。苦かったり、辛かったり、調理に工夫のいる食材もたくさん出てきます。その工夫をして、食材を生かした料理を作る奥田シェフは、在来野菜はより魅力的に変身させていく最前線にいるのだなと思いました。
在来野菜を通して、奥田シェフは庄内地域の方々だけでなく全国各地とのつながりを持ちます。その各地とのつながりは、何らかの形で庄内地域の活性化につながっていきます。地域の地野菜が人と人とをつなぐパイプという、役割を果たしています。
もう一つの活性化の理由は「つながり」の力です。
料理人と、生産者や政府、専門家、他の地域とのつながりは、地野菜によってできていきます。
在来種を守り抜いてきた生産者の方々、それを用いて美味しい料理を作る料理人、さらに様々な知識を持つ専門家など、多くの人と人が作用し、より良いネットワークが築かれることによって地域は活性化していきます。お互いにモチベーションがあがるのだと納得しました。地域内の連鎖も他地域からもたらされる刺激も、すべての人と人とのつながりによってできるものだと思います。
地域で大切に守られて育てられてきた野菜は新鮮で本当においしく、人に元気を与えてくれる力を持つ食材であると感じています。庄内の在来野菜は地域の生産者の方たちが長い間大切に育て、守り抜いてきた食材です。羊や豚、牛も、大切に地域で育てられています。地元の食材こそが地域活性化の核となり、人と人をつなげ、人を地域を幸福にしているのだと強く感じました。“野菜”によってつながりができ“料理”によって輪がさらに広がっていき、それが地域の活性化につながるというプロセスを本書によって知ることができました。
“つながり”の力こそが、日本を元気にするのだと感じたとともに、それぞれの地域にあった幸福の形を探していくことも重要であると感じます。「日本を元気に」この想いこそが最も大事なのだと思います。
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「人と人をつなぐ料理 食で地方はよみがえる」
学籍番号 11FXXXX 関根穂波 ゼミID3706
著者の奥田氏は料理人の域を超えて「陸の孤島、庄内」から「食の都、庄内」へと変化させた。その過程での主役とも言える「在来野菜」は私にとってあまり聞きなれない言葉だった。しかし本書を読んで在来野菜がどんなものなのか、また在来野菜には地方をよみがえらせる力があることがわかった。
在来野菜にはその地方の歴史や気候、生産者の手間と時間がたっぷりと詰まっている。しかしその手間と時間がかかるからこそ徐々になくなっていってしまう。ビニールハウスを使えば1年中収穫できる野菜を作ったほうが生産者の売上も生活も潤っていくのだから、無理もないと思う。庄内の藤沢カブは奥田氏の力がなければ近い将来にはなくなっていたのではないだろうか。その土地にしかないもの、またその土地でしか食べられないものを作ることが地方をよみがえらせる秘訣なのではないかと思う。
私は「在来野菜」は耳にしたことも口にしたこともあまりないが、ひとつだけ年に何回か食べる在来野菜がある。それは北海道の山菜の代表「行者にんにく」である。
母方の両親が北海道に住んでおり、祖父が所有している山から収穫したものをよくこちらの家に送ってきてくれる。祖父が採ってくる行者にんにくは山で自生しているものなのだが、本来は収穫するまでに4年ほどの時間を必要とするらしい。手間と時間がかかることから、あまり市場には出回らず、高値で取引されることもあるのだという。
また、行者にんにくについて調べてみると庄内でも栽培されているようだ。味の方は名前ににんにくとついていることから予想できるが、にんにくの臭いが強く、くせがある。行者にんにくは在来野菜の特徴である手間と時間がかかる、味にくせがあり料理が難しいという2つの特徴を持っている。
私自身正直あまり行者にんにくは好きではないのだが、北海道の歴史と気候が詰まってできた伝統的な野菜が他の在来野菜と同じようにいつの間にかなくなってしまうことがないよう祈るばかりである。
また、地方をよみがえらせるには在来野菜が必要であるが、在来野菜を復活、または維持するには「つながり」が必要であることが本書を通してわかった。奥田氏はネットワーク創出の三角形として、その各頂点に「料理人」、「生産者」、「知識人」を置いた。それぞれがお互いにないものを補い合うというシステムである。
しかし、私は三角形の中にそれぞれの頂点の基盤になるものとして加えたいものがある。それは「土地」である。奥田氏は野菜や畑や土、その土地の気候などを徹底的に調べ理解したと本書で書いていた。野菜や畑などのことを理解するには生産者とのつながりが必要であるし、気候や土の成分などを理解するには知識人とのつながりが必要である。しかしもっと根底を突き詰めていけば、料理人も生産者も知識人もその土地とつながるためにお互いの知識を共有しているのではないかと考える。
また、本書の中には「野菜と喋り、魚と喋る」という見出しがある。これも奥田氏がその土地の食材のことを理解し、土地とつながろうとする気持ちの表れではないかと考える。ネットワークの三角形が強いつながりを構成し、またそれが土地ともつながることで、庄内のように食で地方をよみがえらせることができるのではないだろうか。
最初は食で地方をよみがえらせるとは、美味しい料理で人を惹きつけ街を活性化させていくのかと考えていた。しかしそういう意味ではなく、食で人々をつなぎ、そのつながりがその土地の人々を笑顔にすることで活気が生まれるという意味なのだと気づいた。
また料理人という立場の人が土地や地方の空気を変えることができることがわかり、職業や肩書き以上の活動の可能性がまだまだあることを実感した。庄内に限らず、それぞれの地方が地元自慢の食材をふんだんに使った料理を作って、「ここは食の都だ」と言える日がきたらとても素敵だなと思う。
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「人と人をつなぐ料理 ~食で地方はよみがえる~」
学籍番号11FXXXX 野口顕司 ゼミID 3708
「日本を元気にしたい」。―そんな思いから奥田さんがスタートさせた一連の事業。それは庄内という地方の町はずれにオープンした地場イタリアン“アル・ケッチャーノ”を皮切りに、ついには世界からも注目を浴びるようになった。
まず私の中でこの本を読み“地産地消”や“スローフード”という言葉の概念のイメージが大きく変わりました。“地産地消”という言葉は、私の中ではもっと保守的で対外排除的という印象があったからです。なぜかというと高校生のときに読んだ英文のなかで、地元の商品をその地域で消費することが必ずしもエコであったり良質なものを提供できるとは限らないという趣旨の文言があったからです。
そこには、その土地に適さない商品の地域内生産・消費により、かえって高コストがかかるばかりでなく、環境面でも品質面においても他地域のものを輸入したほうが安くつく場合もあるといったことも書かれていました。
だから“地産地消”を提唱する人というのは、他地域からの商品の流入により自分の職が危なくなる地元人たちによる抵抗なのだと思っていました。
ところが私のその考えは必ずしも正しくはないことが分かりました。この本には庄内地方の藤沢カブ、平田赤ネギといった在来野菜の事例が多く挙げられていました。が、これらは上のような対外勢力にとって代わられて生産者の立場が危ういからといった理由ではなく、その地方の伝統的な食文化や食材を見直そうという理由からくるものでした。いわば、受動的な“地産地消”でなく能動的な“スローフード”運動であるということがいえるのではないでしょうか。またその背景には「食で人を元気にしたい・幸せにしたい」という奥田さんの理念があったことも大きな違いです。
「日本を元気にしたい」。奥田さんはさらっとおっしゃっていますが、こういう青臭いことって心で思っていても意外と口にだして大っぴらに言うことって難しいです。
しかし、そういった明確な目標があるからこそ、一貫したぶれない行動を常にとることができるし、いい結果をもたらすという好循環をつくることができると思います。
奥田さんも確かなビジョンのもとに在来野菜の復興、生産者との信頼関係の構築、地方での講演などを行い徐々にその取り組みが実を結ぶようになってきました。
私はアルバイトで個別塾の講師をやっています。そこでも生徒との目標設定という作業を大事にしています。具体的には、テストでの目標点を高く設定することで勉強へのモチベーションを高められるし、それを達成するために宿題を多めにするなどの多少の苦痛も受け入れてくれます。それに対して目標点を決めずにだらだらやっていくのとで、結果はかなり変わってくるように感じます。
またこの本のなかで料理人、知識人、生産者の3者がそれぞれ足りないところを補完しあう関係にあるという言葉がとても印象に残りました。3者がそれぞれ持っているもの、持っていないものを組み合わせることでお互いにウィンウィンのいい関係性を築くことができます。これこそが地方が生きる道というものを端的に表している構図だと感じました。
つまりこれを別の言葉におきかえると、この本でも何度も出てきた“つながり”あるいは“ネットワーク”といったものになります。つながりに地方再生のすべてがつまっているとまでいっています。
またこのことは地方だけでなく、日本全体にもいえることだと思われます。地方都市の過疎化や孤独死などの問題がさけばれ始めてから長いこと経ちますが、これらの問題の根幹にあるものはこういった“つながり”の欠如によるものです。つまり現代社会の問題解決をひもとくヒントがこの本に散らばっているように感じました。
この庄内での地方再生は1つの解決例にすぎず、すべての都市に当てはまるものではありません。ただ確かにそこには“食”を中心に人々の“幸せ”が存在しています。現代のように、いろいろな物が簡単に手に入りあふれている時代こそ、こうした身近な食材の価値が見直されることにきっと意義深いものがあるのでしょう。(1703字)
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「人と人をつなぐ料理」を読んで
地域活性化の鍵はネットワークづくり」
10FXXXX 3605 小川 僚介
今回の課題図書を読んで、私は同じようなメッセージを持ったある本について思い出した。その本とは有川浩さんの「県庁おもてなし課」という小説である。この本は高知県庁に実在する観光振興のための部署「おもてなし課」を舞台に描かれた小説である。有川浩さんの本は綿密な取材、多くの参考文献を元に書かれており、フィクションでありながら現実味のある作品が多い。今回は、課題図書を読んでの気づきをこの「県庁おもてなし課」と比較しつつ書いていきたい。
重要なのは「ネットワークづくり」
今回の課題図書で作者の奥田さんは、庄内の在来作物を通じて、生産者の方や大学教授のような知識人の方とのネットワークをつくることに成功した。これにより、「アル・ケチァーノ」の料理は庄内だからこそできる料理となり、最終的には庄内を全国にPRすることにつながった。
「県庁おもてなし課」では、観光客増加のためのアイデアとして「高知県まるごとレジャーランド化」という計画が登場する。この計画は高知の豊富な自然を生かし、高知県をまるごとアウトドアスポーツやネイチャーツアーのできるテーマパークのようにしてしまおうというものである。そのために、高知に点在している自然を「レジャーランド」という一つのテーマに沿ってつなげ、全国にPRしていく。衰退していった在来作物のように、地方の観光資源も単体では、都心部や京都や沖縄などの力のある観光地に負けてしまう。しかし、それぞれをつなげ、テーマ性を持たせることで、その力は何倍にもなるのではないか。今回の課題図書は、「人」のネットワークに注目して書かれていたが、個々では弱いものにテーマ性を持たせてプロデュースしていくという本質の部分は、地域活性化全体として重要な視点ではないだろうか。
「いいもの、いいところ」は現場主義で見つける。
ネットワークをつくる上で、そもそも何をつなげるのか考えなくてはいけない。つなげるべき「いいもの、いいところ」を見つけるためには、足で稼ぐしかない。奥田さんは生産者の方と、料理人としてではなく一個人として深く関わっていた。だからこそ、他の人では知り得なかった知識を得ることができ、ネットワークもより強固なものになった。
「県庁おもてなし課」の登場人物たちも、高知の観光地に実際に足を運び、実際体験してみないと知り得なかった情報を元に、高知レジャーランド化構想を進めていった。食材も観光地も表面的な知識だけでは本当の良さを理解することはできない。実際に食べてみないと、また実際足を運んでみないとわからないことがネットワークをつくる上でのヒントとなる。小川ゼミのクレドにもあるように「現場主義に徹する」ということが何より重要なのではないか。
「アル・ケチァーノ」の料理はおそらく庄内以外ではできない。畑から収穫してからすぐ調理することでできる、これにより可能になる素材を活かした味付けは他の土地では同じ材料を使ってもできない。地域活性化も単純に成功している観光地のマネをするだけでは、おそらく成功しない。他県や他の地域にはないその土地の良さを、足を使って調べ、一つ一つをつなげネットワークを作っていくことで、その良さは大きくする。地域活性化はこのように行うことで成功するのではないかとこの本を読んで思った。