「まえがき」と「あとがき」:小川孔輔(2013)『フラワーマーケティング入門』(誠文堂新光社)

 拙著『フラワーマーケティング入門』の印刷が始まっている。先週になって、表紙のカバーデザインも決まった。4月中旬には発売される予定である。なお、11人の読者に拙著をプレゼントをすることになっている。「まえがき」と「あとがき」をアップする。本書の内容が分かるだろう。

 小川孔輔(2013)『フラワーマーケティング入門』誠文堂新光社

 まえがき

 マーケティングとは、「顧客に対する企業組織の市場対応のこと」を指す言葉である。マーケティングの考え方や実行の枠組みは、大きな営利企業に限定されるものではない。協同組合や学校のような非営利組織にも、あるいは中小商店や独立農家のような個人会社組織にも適用できる考え方である。
 市場への組織対応の仕方は、4つの基本要素に分解できる。その4つとは、「商品政策」「コミュニケーション」「価格設定」「チャネル設計」と呼ばれる「マーケティング・ミックス」である。加えて、マーケティングには、「市場調査(リサーチ)」と「顧客サービス」が必要である。
顧客に提供する対象物が、花き類(花や緑)やそれに付随するサービス(たとえば、結婚式や葬儀のデザインの演出)であっても、マーケティングのやり方は基本的に変わることはない。必要な商品を必要なときに、それが必要とされる場所にタイミングよく届けることである。花や緑を購入してくれる顧客は、一般消費者のこともあれば、ビジネス顧客のこともある。自治体や病院や学校が、イベントやセレモニーの開催のために購入してくれることもある。対象は自由である。
 したがって、マーケティングの手法を学ぼうと思うならば、一般書店に並んでいる書籍の中から、「マーケティング」や「市場調査」などが書名になっている書籍を選べばよいだろう。たとえば、やや分厚い書籍になるが、拙著『マーケティング入門』(日本経済新聞出版社)や『ブランド戦略の実際(第二版)』(日経文庫)などが参考になる。読者が花屋さんや市場関係者ならば、マーケティングの基礎知識を身に着けたあとでは、JFMA編集の『お花屋さんマニュアル2012-2013』(誠文堂新光社)などを読んでみるとよいだろう。
 本書は、そうした知識を得たいと考えている花業界で働く人たちに、マーケティングの視点から業界の現状を整理した本である。フラワービジネスを展開するために知っておくべきマーケティングの知識が解説されている。ただし、なるべく理屈(理論)を主体ではなく、実例を中心に実践的な解説を試みている。

 全体は、5つの章から構成されている。
 第1章「日本人よ、もっと花を贈ろう」では、はしがきで紹介した枠組みでいえば、「花のプロモーション」を取り上げている。特定の品種・品目ではなく、花というカテゴリーをプロモート(販売促進)するために、マーケティング上ではどのように活動を組織すべきかをそこでは考える。
 事例としては、わたしたち「日本フローラルマーケティング協会」(以下では、JFMAと略す)が取り組んできた3つのキャンペーンを取り上げる。「ミモザの日」「フリーペーパー」「フラワーバレンタイン」のキャンペーンである。「誕生日に花を贈ること」や「手土産に花を持参すること」のように、消費者に花の存在に気づいてもらい、店舗やネットで消費者が日常的に花を購入してくれる習慣を根付かせることが狙いである。
 第2章「リサーチから読み解くフラワービジネス」では、そのために必要な調査の技法と実例を紹介している。「店舗観察の方法と基本ルール」では、観察法の原則が示される。実例として、食品スーパーのヤオコー(上里店)で実施した「徳島すだちの店頭プロモーション」と、同じくヤオコー新座店からスタートした「切り花の鮮度保証販売」の初期の展開方法を紹介する。
 第3章「フラワーマーケティングの実践:JFMAの挑戦」は、JFMAの活動とMPSの普及活動、およびIFEXの8年間の歴史をたどった記録集である。国際的なイベント・マーケティングの組織として、IFEX/GARDEXがどのように生まれ、どのように発展を遂げてきたのかを解説する。IFEXの二年後に産声をあげたMPS(花き産業総合認証プログラム)が、オランダからどのように移植され、流通・小売りの現場にどのような影響を与えているのかについても説明している。JFMA の活動は、花業界と異業種との提携を推進する組織的なマーケティング活動の歴史だったことがわかる。
 第4章「変わる世界の花ビジネス地図」では、世界各国の花産業の最先端の動向が示されている。アジアに関しては、中国の花き展示会や特許出願に関する中国政府の態度変容、台湾で開催された花博の様子、タイの斉藤農場訪問記を取り上げる。つぎに話題は、北米と中南米に飛ぶ。欧州については、オランダとドイツの国境を跨いだ市場統合(ライン・マース市場の成立)、イギリスの花産業の現状(テスコと花束加工産業)、オランダの花き産業の復活、スイスの生協ミグロの店頭マーケティングの様子を取り上げる。
 最後に、第5章では、「これからのフラワービジネス」を展望する。日本からの切り花輸出(安代のリンドウ)の未来、フラワーセラピーの効果、花き産業振興方針(平成22年度)の花産業にとっての意味、切り花の国際貿易と為替変動リスクについて所感を述べる。

 あとがき 
                            
 「ローマは一日にして成らず」。
 世の中を変え、業界人の発想を変え、花の産業のあり方を根本的から変えていこうと思い立ち、2000年の5月18日に「日本フローラルマーケティング協会(JFMA)」を仲間とともに立ちあげた。そして、大学教員である自らが会長に就任した。
 設立メンバーの中心には、副会長の守重知量さんや伊藤瞳さん、常務理事の海下展也さんなど、約50名の同志がいた。われわれはこの間、この業界の変革について真剣に討議し、勉強のために欧米やアジア・アフリカに視察旅行を重ねてきた。国際セミナー(年二回)やアフタヌーンセミナー(毎月一回の午後)、イブニングセミナー(毎月一回の夜)は、われわれが情報を共有し、互いの交流を深める場でもある。
 その積み重ねが、2004年にIFEXを生み、2006年にオランダからMPSの導入を成功に導いた。直近の活動としては、2010年からの「日持ち保証販売」の普及と「フラワーバレンタイン」の全国キャンペーンがある。後者の2つは、松島義幸さんが、「キリンアグリバイオカンパニー」(社長)を退職してから専務理事としてJFMAに加わったのちの成果である。
 そこから本格的に、花業界の改革がはじまったのだが、気が付いてみると、設立から13年の月日が経過している。当初想定していたほどには、花業界の改革は進んでいない。しかし、将来の花産業を担ってくれるはずの若手は育っている。

 本書は、IFEX設立から6年が経過した後、後半7年間(2006年~2012年)のJFMAの活動記録でもある。花と緑の国際展示会(IFEX)が始まり、花き園芸の環境認証プログラム(MPS)が創設され、その後に経営大学院のスクール長を兼務しながら、松島専務とともに協会運営のために資金繰りに奔走した。ビジネス上の苦闘はいまでも続いている。
 本書の内容は、2005年に刊行された『花を売る技術』(誠文堂新光社)に続く「花産業の分析シリーズ」(第二弾)である。前著と同様に、『農耕と園芸』の連載コラム「JFMA通信」(見開き2頁)を再編集したものである。4つの記事コラムだけは、小川の個人HP(https://www.kosuke-ogawa.com/)から収録したものである。
 記事を再編集する作業は、誠文堂新光社書籍編集部の新出さん(連載時の担当者でもあった)にお願いすることした。ごく短い間に、このような形で編集していただいたことについて、新出さんに感謝したい。
 なお、いちいち名前を挙げることはできないが、本書に実名で登場するJFMA会員の皆さんには心より感謝したい。この業界の改革をなかなか軌道に乗せることができていないが、これまでJFMAの運営が続いてきたのは、会員の皆さんのおかげである。本書が、皆さんのビジネスの宣伝にもなることを希望している。

 JFMA会長 小川孔輔
 2013年3月吉日