先週の土曜日(16日)、日本テレビの「3つ星料理人が選ぶNo.1駅弁」(13時半~)という番組を見た友人から、携帯にメールが入った。本の校正作業をしていたときで、連絡をもらった時には放送は終わっていた。彼女は松川の駅弁を何度も食べているので、うれしくて知らせてくれたのだった。
偶然はここからはじまる。
コメンテーター役を務めていたのは、彼女が仕事上で付き合いがある元麻布の日本料理店「かんだ」のオーナーシェフ、神田裕行さんだった。神田さんはフランスで13年修業をした料理人で、「かんだ」は、知る人ぞ知る三ツ星レストランである。
彼女のメールには、つぎのような説明があった。
「神田さんはふだんテレビには出ない方なのですが、松川弁当の米沢のまかない牛めし弁当がNo.1といい、なぜそうなのかとうとうと語ってました。すごいことです」。
番組の中では、駅弁屋祭(東京駅構内)の状態が再現された様子で、何十種類もある駅弁の中から最初に、「米沢の牛めし」と「明石のひっぱりだこ」と「米子の鯖鮨」の3つが選ばれた。その中でNo.1になったのが、「米沢のまかない、牛めし弁当」(¥1,050)だった。
「冷めても美味しいお弁当を考案したことが素晴らしい、と。また、野菜が混ざっておらず牛肉だけだから、ご飯がべちょっとならず、ご飯も美味しく食べられる。これが自分好みと言ってました」(番組を見ていた友人の解説)。
わたし自身、「まかない牛めし弁当」は、ノーマークだった。松川弁当店の主力商品は、1500円(牛肉弁当)と1200円(牛タン)の製品ラインである。数量的に、1050円のまかない牛めし弁当は、たくさん置いてあるわけではない。
しかし、神田さんのコメントは、さすがに的を得ている。松川弁当店の商品で、もっともご飯がおいしくいただけるのが、まかない牛めし弁当かもしれない。具材もシンプルで、なおかつ値段もリーズナブル。
試みに、”かんだ”のホームページを覗いてみた。募集案内には、つぎのように記されている。
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<募集案内>
日本料理を目指す若者を募集しております。
流行りの料理を追うのではなく基礎をしっかりと学びたいと云う方が理想です。
基礎がしっかりしていないと結局アレンジも冒険も出来ない、そう思います。
人間が大好きなサービススタッフも募集しております。
お酒、ワインが好きな人限定。
調理、サービス共に男女は問いません。
ご参考迄に記すとかんだの調理場において主人の次のチーフは初代も二代目も女性でした。
勤務時間、給与は要相談。目安は拘束一日12時間。
年齢給。年季と実力でボーナス年2回です。
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勤務時間に、「12時間拘束」と書いてしまうと、労働基準法に反することにならないのだろうか。心配になる。さらに、お店の「案内ページ」を見てみた。
店の運営方針を知りたかったからである。
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<ご案内>
こんにちは、かんだです。
ようこそ私達のお店のページへ。 まずはお店の紹介からさせてください。
このお店は2004年5月11日に開店いたしました。
オーナーシェフは神田裕行。
神田は徳島で日本料理を営む家に長男として産まれ、高校を卒業と同時に大阪で料理人としてのキャリアを初めて23歳で渡仏、Parisの日本料理レストランで5年間料理長を勤めた後帰国。
帰国後は料亭青柳のスタッフとして13年働き、2004年に独立開店しました。
お店のコンセプトは
「目と手と気持ちが届く店」です。
料理とお酒をあうんの呼吸で楽しんで戴ける事が
目標です。
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おいしい料理は食べられそうだが、オーナーーシェフの神田さんは、かなり偏屈そうで変わり者の雰囲気を漂わせている。
案内に書いてある「徳島」と「青柳」が引っかかった。さっそく、徳島県出身の元大学院生(現在、中小企業診断士として活躍中)の花畑裕香に電話をしてみた。
「神田さん、知っていますよ。卒業プロジェクトで”すだち”をテーマにしたとき、最初に連絡をさせていただいたのが、神田さんでした」(花畑)
徳島出身のオーナーシェフで、すだちを使ってくれそうな料理店をさがしていた花畑さんが、最初にコンタクトをとったのが元麻布の”かんだ”だった。神田さんの対応は、実に誠実なものだった。
「それなら、自分ではなくて、(先輩筋にあたる)青柳さんにアドバイスをしてもらうのが一番いいでしょうね」(神田さん)。
神田さんから、花畑さんは、13年間スタッフとして働いていた「青柳」のご主人を紹介してもらったのである。
花畑さんは、青柳さん(六本木、当時)に、創作料理の「すだち寿司」を考案していただいた。
卒業プロジェクトで優秀賞を獲得したことがきっかけで、花畑さんは、食品スーパーのヤオコーで2年間にわたって、「すだちプロモーション」を実施することができた。
彼女は、地域ブランドのプロモーションで実績を積んだことで、現在は診断士MBAとして、群馬県のブランド支援の仕事をしている。徳島のすだちプロジェクトは、4年前のことである。
「むこう(神田さん)は、たぶん覚えていらっしゃらないでしょうね」(花畑さん)。
偶然なのだが、めったに出ない日テレの番組に出演した神田さんを介して、徳島のすだち寿司と、米沢の牛めし弁当がつながってしまった。
これは、林社長(松川弁当店)から神田さんへのお礼もかねて、この劇の登場人物の皆んなで、”かんだ詣で”をするしかないだろう。