昨日の2時限目は、「特別講義2:農業の未来をどのようにデザインするか?」だった。特別講師は、久松達央氏。ご存知のように、久松さんは、『キレイゴト抜きの農業論』(新潮新書、2013)の著者である。学生たちには、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社、2014)の感想文を書いてもらっている。
講演内容は、青木がメモを作成してくれているので、いずれブログでも公開する。その前に、わたしが昨日感じたことを、メモにしてとりあえず残しておきたい。久松さんに、院生たちからたくさんの質問が出ていた。それを踏まえての感想である。
1 農業に限らず、21世紀のこれからは、小さくても強靭な組織が主役になる時代である。
わたしが、常々「アンスケーリング」(組織を大きくしないことのメリット)という考え方を、久松さんは「小さくて強い農家の生き方」と読みかえてくれている。ただし、
2 小さな組織は、3つのリスク(問題)を負うことになる。
①<収益リスク> 事業規模が小さいために、高収益体質(高価格、高粗利)でないと組織を持続させることができない。
②<人材リスク> 人材が限られるので、人がいなくなると組織が動かなくなる。ある程度の代替可能なプールが必要になる。
③<顧客リスク> 顧客の離反が致命的になる。だから、顧客との強い関係性が構築できないビジネスモデルは生存不能である。
3 本当は、<経営資源的な制約>=資源リスクもある。
そうなのだが、この点に関して、ITをベースにした「クラウド」が解決してくれている。たとえば、会計事務や農業技術、ファイナンスについては、クラウドサービスがすでに存在している。そのことを要領よく解決してくれれば、組織を超えたスケーリングができる。つまり、規模には制約されないビジネスが可能である。
4 小さな組織の命運
1~3を斟酌すると、つぎのような3つの課題をどのようにクリアするかが、小さくて強い組織がどれだけ世の中に広がるかのカギになるようだ。
①<市場条件> すでに飽和している農産物・農産加工品市場で、今後どれだけニッチな市場ニーズを顕在化できるか?具体的には、国内外の食材(生鮮3品)をベースに、新しいニーズ(新規のめずらしい食べ物)が発掘できるかどうか?日本人の昔の生活や諸外国の食生活の中から、発掘(再発見)することでも構わなり。が、どれもマス化できないニッチなものあることが前提になる。
②<顧客ニーズ> 同質な顧客が主だった時代とは、食の風景はがらりと変わってしまう。大きなちがいは、アンスケーリングの世界では、多様性とマスの間にトレードオフが存在していることである。その矛盾の解決方法は、多様でありながら、ある程度は共通な個別ニーズを生産側で集約できることである。個別ニーズに集中することが収益性を保証して、なおかつ顧客ニーズが十分にロングテールであるならば(日本人がお互いにちがうことに対して価値を見出すようになれば)、小さな組織にも出番がある。
③<人間の働き方> とくに若者たちが、未来世界でどのような働き方を望むかが、小さな組織の生存にとっては大切である。もしも、公務員(大企業)のような組織が、引き続き安定した生活を保証してくれるのであれば、小さな組織に勝ち目はない。しかし、もしかすると、誰かが予言していたように、世の中から「上場会社」のような組織が消えてしまう(数が極端に減る)ようならば、選択肢としては中小規模の組織しか残らないことになる。
若者の生き方として、いまやマジョリティとなった「小さな組織でどのように生きるか?」が重要課題となる。これは十分に起こりそうなシナリオである。いつかわたしがどこかの雑誌に書いたことがあるが、「いずれ世の中の人はみな、大学教授のような働き方をするようになるだろう」。つまりは、「フリーランスが多数派になる時代」が到来するのである。
結局、小さな組織の命運は、わたしたち日本人が、多様性(多様な商品、多様な生き方、多様な働き方)を重んじるかどうかにすべてがかかっている。さて、みなさんは、どのように考えるだろうか?
締め切りの迫った原稿のプレッシャーにさらされながら、新しいアイデアを発想できない時間に悶々とする研究者は、基本的にM体質である。しかし、同質な成果を求められない(人と同じ答えだと「零点!」なのだ)、幸運な生き方の機会を保障されている。どれくらいのひとびと(マス)が、わたしたちのような働き方をよしとするか。
ところが、世界を見渡してみると、すでに「フラ―ランス化」は思いのほかに進んでいる。米国人の多くは、大きな組織で働らいているわけではない。だから、30年前にカリフォルニアの大学キャンパスで、SOHO(Small Office, Home Office)を対象に「キンコース」が生まれたのである。
そして、米国はすでに、フリーランスがマジョリティの国である。しかも、自由人でかつ高額所得者にそのような傾向が強い。日本の未来はどうだろうか?