動物の病院、植物の病院、会社の病院

 文化の日で休みなのにもかかわらず、後輩の安嶋明君に、無理を言って大学院の講師を引き受けてもらった。わたし自身もVEP(Value Enhancemant Partner)として関わっている「企業再生ファンドの役割」について、大学院生向けに2時間ほどレクチャーをしてもらった。



 3年間仕事を手伝っているのにうかつだったのは、安嶋社長の「日本みらいキャピタル(株)」が社会的にどのような役割を果たしているのかについて、本質をきちんと理解していなかったことである。学生達と一緒に教室に座っていて、本日ようやくそれが明確になった。
 さまざまなタイプの企業再生ファンドがあるが(2004年6月現在で478)、彼の会社は、比喩的に言うならば、会社向けの「リハビリ施設付き外科病院」である。悪いところを外科手術で切開したのち、無事退院するまでの間、リハビリ用のジム施設付きの病院で面倒をみてくれるのである。
 話を聞いていると、プライベート・エクイティ・ファンドのなかで、手術後に社会復帰まで面倒を見てくれるファンドはまれのようである。そこが、同業他社にない彼の会社の強みである。再生ファンドとして、特殊な育成技能が蓄積していく所以になっていくのだろう。3年間で6社の事例を手がけ、そろそろ業界的にも高い評価を受ける時期にかかってきているようではある。

 安嶋君の表情は以前と比べて、何となく明るく見えた。一番大変な時期は抜けたようである。額の皺の緊張が少しだけゆるんだようである。ほっとした文化の日ではあった。

 「会社の外科病院」という比喩を使ったが、「植物の病院」というのは聞いたことがあるだろうか?
 動物の病院を最近は街中でもよく見かけるようになった。入学定員は少ないようだが、獣医学部は各県に最低一つくらいはある。
 先日も一番下の息子が、飼いはじめてから一年になるフェレット(イタチ)を市川の動物病院に連れて行った。予防注射をするためだったらしいが、保険がきかないので、一万円をとられたらしい。人間でも動物でも病気にかかったときは、少し不安ながらも命を預けられる病院がある。

 ところで、植物も病気にかかることはある。原因は害虫だったり、ウイルスだったりする。遺伝的な特質で成長・生理が阻害されていることもあるだろう。そうなれば、農薬を使うわけだが、治療のためにわれわれ一般人は充分な知識を持っているとは言えない。
 しかしながら、「植物病院」や「植物医師」というのは聞いたことがない。自分が育てている植物が病気にかかったとき、どこに問い合わせたらよいのだろうか?
 樹木の医者という意味では、「樹(木)医」という存在は聞いたことがあるが、大学でも樹医学部、植物医学部、はたまた植物病院などの名前を見たことがない。

 実は、米国では「植物病理医科学部」はポピュラーな存在らしい。という話を、わざわざ先週、IFEX(東京ビッグサイト)を訪問してくれた東京大学農学部の難波成任先生からうかがった。難波教授は私と同年齢で、かなりユニークな方である。難波研究室のミッションをご自身で以下のように記述されている。
 「(前略)世界の食糧生産のうちその三分の一は病虫害や雑草害によって失われている。特に病害による損失はその三分の一以上にもなり、全食糧可能生産量の12%にも達すると推定されている。これは年間8億人以上の人口を養える量である。この危機的な状況を克服するためには、植物を病気から守り、治療する研究を推進する必要がある」
 <http://papilio.ab.a.u-tokyo.ac.jp/planpath/ppref.html

 われわれが構想しているMPSジャパン・プロジェクトでは、農薬や肥料の使用量を抑制することになるが、その場合、土壌分析をしたり、植物病理を研究する必要が生まれる。植物病理医学を卒業した植物医が、病気の診断・治療にあたるというアイデアはいかがなものだろうか?
 日本では、植物医を育てる「植物病理医学部」はないが、東大と北大の農学部には、「植物病理学科」があるということである。難波教授の夢は、植物医を作ることだというが、それならばこの際、法政大学に「植物病理医科学部」を創設してはどうだろうか?
 日本初の「植物医」を養成するのである。どこかの生物系の理学部か農学部を買収すると同時に、多摩校舎の現代福祉学部には、「植物療養学科(ホーティセラピー)」を併設してもよい。樹木医の国家資格取得を必修にするのも悪くない。
 どなたか、大学再生ファンド、教育ベンチャーファンドを創設して、このアイデアに投資してくれないものだろか?