「オーガニック通信」(有機農業、オーガニック、食の安全: vol.24号)が届いた。2013年3月19日号である。徳江さんが細々だが発行を続けている「オーガニックマーケティング協議会」のメルマガ会報誌である。今回は、最初の部分を紹介する。
今日のメールは、なかなか示唆に富むものであった。TPPと有機農業を考えるヒントになる。わたしも知らなかったことが書いてある。オーガニックの定義に関するものである。
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法政大学 小川 孔輔 様
-改めて、オーガニックの定義を考えてみる-
今回、NEWSの最初に紹介した全有協(全国有機農業推進協議会)の発表した
「有機農業推進に関わる政策提言第3次草案」は、今後有機農業を推進するに
際しての取り組むべき内容がよく整理されています。
その言及は細部にわたりますが、斜め読みでもしていただければ、いくつかの
キーワードに気がついていただけると思います。
そもそも日本の法律や制度で、有機農業あるいはオーガニックはどう定義され
ているのか、その経緯などに少しふれてみます。
何やら現状のTPP問題が彷彿としてきます。
1.有機農業推進法の定義
有機農業とは、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺
伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境へ
の負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう。
2.有機JAS規格の定義(生産の原則)
農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学的に合成された肥料及び農
薬の使用を避けることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力を
発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減し
た栽培管理方法を採用した圃場において生産すること。
とある。
有機農業推進法ができたのが2006年、それに先立つ2000年に有機JAS規格が
制定され有機農産物の第三者認証制度がスタートしています。その理由は
「市場に有機というラベルを貼った偽装表示が横行し消費者の誤解を招く」
ということでした。しかし、実際の主たる理由は、1991年からFAOとWHOの合
同食品規格委員会であるコーデックス委員会で有機食品に係るガイドライン
作成の検討委員会が開始され1999年に「有機生産食品の生産、加工、表示及
び販売に係るガイドライン」採択されたことによります。
コーデックス委員会とは、国連食糧機関(FAO)と世界保険機構(WHO)が
1962年に合同で設置した国際政府間組織で、国際的な食品規格を策定するこ
とで、食品の公正な自由貿易の促進と消費者の健康保護を図ることを目的と
して掲げています。日本は、1966年に加盟しています。
CODEX委員会で定められた規格は、世界貿易機関(WTO)の多角的貿易協定の
もとにおいて、その規格に整合していないと非関税障壁としてWTOに提訴され
る懸念があるため、WTO参加国はこの規格との整合をとって国内法で対応する
というのが真相で、日本はJAS法改正に合わせ、手っ取り早く表示法で有機
農業を規定したわけです。
まさにTPP問題とよく似ています。
したがって、日本の場合、なぜ有機農業を行うのか、有機農業は本来環境保
全や人の健康に貢献する優れた農業であることなど、根本のところの議論と
指針がだされないまま、単なる表示規制としてスタートしたため、むしろ生
産者には規制による表示ミスの罰則リスクなどが高くなり、却って有機農業、
有機食品の拡大を妨げているという側面もあることを考える必要があります。
ところで、このコーデックス委員会の有機のガイドラインを作成するに
あたって大きな役割を持ったのが、民間団体で現在世界111カ国以上から有
機関係約770団体が参加する国際有機農業運動連盟(IFOAM)です。
そのIFOAMの掲げる有機農業の定義と4つの原理を紹介しておきます。
IFOAM有機農業の定義
有機農業は、土壌・自然生態系・人々の健康を持続させる農業生産システ
ムである。
それは、地域の自然生態系の営み、生物多様性と循環に根差すものであり、
これに悪影響を及ぼす投入物の使用を避けて行われる。
有機農業は、伝統と革新と科学を結び付け、自然環境と共生してその恵みを
分かち合い、そして、関係するすべての生物と人間の間に公正な関係を築く
と共に生命(いのち)・生活(くらし)の質を高める。
有機農業の原理
*健康の原理
有機農業は、土・植物・動物・人・そして地球の健康を個々別々に分けては
考えられないものと認識し、これを維持し、助長すべきである。
*生態的原理
有機農業は、生態系とその循環に基づくものであり、それらと共に働き、学
び合い、それらの維持を助けるものであるべきである。
*公正の原理
有機農業は、共有環境と生存の機会に関して、公正さを確かなものとする相
互関係を構築すべきである。
*配慮の原理
有機農業は、現世代と次世代の健康・幸福・環境を守るため、予防的かつ責
任ある方法で管理されるべきである。
日本の有機農業推進法や有機JAS規格の定義とは似て非なるものであり、農薬
や化学肥料の問題はその一部の問題であることが分かります。そしてIFOAMが
世界のメンバーと多くの議論を通じてまとめてきた有機農業の本質的考え方が、
現在私たちが抱えている環境問題、原発問題など、自然と人間の関係のあり方
に多くの示唆を与えるものであることが見えてくるのではないでしょうか。
徳江倫明