シンガポール航空(SQ)の広報担当部長、鹿野さんに「CSフォーラム(SPRING)」で講演をお願いした。場所は日本生産性本部(新丸の内センタービル)。東京駅近く、丸善が入居しているOAZOビルに隣接した建物の6Fである。
セミナー参加企業の半分が航空会社のCS・広報担当者だった。業界団体の交流会の場も提供したようだ。鹿野さんの講演はおもしろかった。
フォーチュンやその他の雑誌で、「(SQは)世界でもっとも愛されている航空会社」とされている。数々のアワードもたくさん獲得している。
世界一のラグジュアリー・エアラインであるが、内容をよく見てみると、ビジネス顧客に特化したサービス提供に徹していることがわかる。たとえば、ファーストクラスのキャビンや食事などへの投資のやり方をとってみても、顧客の要望に沿ってメリハリをつけていることが最大の成功要因だろう。
詳しい講演録は、数週間後にブログにアップする。SQのサービスと講演内容について、わたしの解釈(コメント)を簡単に記録に残しておく。
1 SQにとっても顧客満足
(鹿野さんの講演と表現は異なるが、)ターゲットとなる上顧客の開拓とその再利用(リピート)を追及すること。そのために、ビジネス顧客が求めるものへ優先的に投資をしてきた。
シンガポール航空は、顧客のニーズ充足に必要なサービス提供について、「ポジティブにサイクルが回るよう」継続的に努力を続けてきた企業だと言える。
サービス提供の基準が、CS(顧客満足)である。企業経営の真ん中に、ターゲット顧客の要望がある。ラグジュアリーブランドによくあるように、SQブランドそのものは、わりに「ぼやっとした存在(イメージ)」である。SQブランドは、個別具体的にどのようなものであるかは、うまく表現ができない(小川の解釈では、「ゲシュタルト」=イメージの全体像がブランドそのものになる)。
2 3つのガイドライン
顧客の要望をどのように応えていくのかについて、会社(従業員)としては、3つの行動指針を持っている。
大きく括ると、①イノベーション、②サービス、③ネットワークである。
①イノベーション(設備投資)
これは、換言すると、物的な設備に対して、金に糸目をつけずに贅沢に投資していくことである。
たとえば、SQの航空機材の「平均機齢」(買い替えサイクル)は6年である。これは、わたしの車の買い替えサイクルよりも圧倒的に短い!
他の航空会社(の平均)はわからないが、ぜいたくな機材を使って、それを短サイクルで回している。最新の設備を提供するためである。
なお、世界最長のルートを持っているのも、シンガポールエラインである。NYとチャンギ空港の間で、フライトの時間は20時間。
②サービス
カテゴリーとして、3つのサービスが提供されている。キャビンクルー、グルメ、地上サービスである。
キャビンクルーは、採用されると17週間の訓練を受ける。彼女たちは、定期的に社内評価と顧客からのフィードバックを受けて、表彰される。モチベーションは、(チップを受け取る)レストランのホステスさんと同じに見える。
機内食(グルメ)は、各国の有名シェフがプロデュースしている。料理を事前に予約ができる。
地上サービスは徹底している。たとえば、遅延(DELAY)が起こった場合、経理担当者であろうが全員がバックアップ体制に回る。全員参加型の経営。
③ネットワーク(オペレーション=運航体制)
運行時間の設定についても、顧客志向である。
たとえば、日本(羽田、関空)発の便の多くは、ビジネス顧客のニーズに合わせて、(羽田)夜間00:30発、(チャンギ)早朝6:00着になっている。仕事のあとに飛び立って、翌朝から現地で仕事ができるフライトスケジュールが組まれている。
3 まとめ
①顧客の構成
上質なビジネス顧客が多数を占める。この市場は、圧倒的に需要が安定していて、価格弾力性が小さいセグメントである。イールドマネジメントも価格をコントロールすることが優先されるわけではない。むしろ、顧客のニーズに合ったサービスを、他社に先駆けて提供することによって、高い品質イメージを獲得する戦略をとっている。
②従業員のモチベーション
教育期間は長いが、特別なマニュアルが準備されているわけでばない。むしろ、サービス理念を明確にして、従業員に権限移譲している。顧客の求めに応じるために、クルーやCSには自由裁量権を与えている。特別なサービス提供に対しては、個人が表彰されることもあるので、それがモチベーションの向上につながっている。
③国際金融都市シンガポールとともに
シンガポールは、人口500万人弱の小さな国である。しかし、いまやアジアと世界の金融の中心地である。先進的な金融IT企業やサービス産業の集積もある。アジアのビジネスのハブである。
その国を世界中から訪問するビジネス顧客にフォーカスしてきた。SQは、国際金融都市であるシンガポールという国とともに成長してきた。シンガポールのグローバルな産業ポジションが、SQのサービスを生み出してきたのである。