荒井伸也さん(AJS会長、サミットストア元社長)が作家を目指した理由

 昨日、荒井伸也さん(AJS会長、作家ペンネーム:安土敏)をインタビューさせていただいた。3年来の念願がようやく叶っての面談だった。今回は、『販売革新』(商業界)の50周年記念特集号の企画である。その第一弾のインタビューである。仕事の内容は、次回のブログに掲載する。



 インタビューの最後に、後輩の作家志望者として、荒井さんに「(良き)作家になるための秘訣」を伺おうとした。その答えが、意外だった。荒井さんは、作家になりたくて、物書きの仕事を始めたわけではなかったのだ。

 ご自身の解説によると、1970年に住友商事人事部から、セーフウエイ(米国のSM)とのジョイントベンチャーではじめたサミットストアに出向した。すでに、セーフウエイが撤退を決めて、単独での展開だったが、小売業としてはかなり悲惨な状態だったらしい。
 約10年で、食品スーパー事業を立て直すことに成功した。そのあと、荒井さんには、前後3回、サミットから本社に戻ってくるように打診があった。その都度、断ってきた。再移籍はしたくなかったからで、おそらくは食品スーパーの仕事が面白くなったからだろう。
 しかし、荒井さんは、サラリーマンである。会社が命令を下せば、住商の本社に戻らざるを得ない。そこで、万が一のためにはじめたのが、ペンネーム(安土敏)でフィクションを書くことだった。そして、出来上がったのが、『販売革新』に連載した『小説スーパーマーケット』だった。

 わたしは、荒井さんの本を80年代の中ごろに読んでいる。当時は、マーケティング・リサーチャー(研究者)ではあったが、将来は流通の関係する研究もしたいと思っていたからだった。
 書店であの本を手にしたのは、偶然だった。それでも、「(この)安土敏さんは、どんなひとなのだろうか?」と読みながら想像していた。
 『小説スーパーマーケット』をもとに、伊丹監督が「スーパーの女」の脚本を書くことになったが、わたしを小売業の仕事に導いた一冊でもあった。その後に、流通産業研究所(後のセゾン総研)で、関西スーパーなど、食品スーパーの作業システムのことを知るようになった。小説の内容が、同じソースから出ていることを知ったのは、その数年後だった。

 荒井さんの話を伺って、あるアイデアを思いついた。食品スーパーの業界を熟知していた荒井さんが、その仕組みと裏側を小説に仕立てたのである。20年以上前のことではあるが、ならば、花業界をよく知っているわたしは、花業界を舞台にノンフィクションを書けばよいのでは。
 登場人物が実名である必要はない。誰か別の人物のイメージで、花屋さんを主人公にすればよいのだ。キリンビール、サントリー、青山フラワーマーケット、日比谷花壇、○○花き農協、専門輸入商社××。△△花卸市場。品ぞろえに問題はない。その裏側もよく知っているぞ。 
 これから、東海道新幹線で、フローラ21の坂崎さん(彦根市)に会いに行く。その電車の中で、仮のストーリーを描いてみようか。荒井さんのおかげで、第3作を書くための重要なヒントを得ることができた。