全米ベストセラーとなった『なぜこの店で買ってしまうのか:ショッピングの科学』の著者による、女性の行動観察記録である。女性という種の台頭により、ビジネスの世界がどのように変わりつつあるのかを解説した本である。小売サービス業の経営者必読の書である。
原題は、”What Women Want – The Global Market Turns Female Friendly”。女性が望む方向に、世界は動いている。商品やサービス、あるいは店舗環境が、より女性にやさしく変わりつつある。そのことの意味を解説している。
言い方を変えると、女性を喜ばせることができる商品やサービス業こそが栄える。男性目線のビジネスは衰退の淵にいる。見方を変えなさい! けだし、名言である。その通りである。世界は二人のために、ではない。世界は女性のために、存在している。
第一章のリード文は、「女性が世界を変えた」ではじまっている。
断っておくと、前作(★5)とはちがい、評者の評価は星4つである。それは、翻訳がやや読みにくいからである。また、解説がやや冗長なところが気に入らないからである。内容(インサイト)は、まちがいなく5つ星である。
わたしたちの生活の中で、女性が係っている衣・食・住・遊(美容や健康を含む)のシーンを、本書はカバーしている。住生活(1~4章)からはじまり、旅行・ショッピング(5~11章)、食生活(12~13章)、健康・美容(14~15章)と続いている。
アンダーヒルさんは、中年男性なのだが、あくまでも、女性の発想、女性の視点から本書は執筆されている。観察眼鋭いパコさんが、なぜ女性のことをそんなにも深く理解できるのか、わたしには謎である。
典型的な男性種のわたしは、かみさんが、最寄駅から自宅までのわずか7~8分の道を、夕方になって暗くなると異常に怖がることを不思議に思っていた。本書を読めばそのことの本質が理解できる。
そうだったのか、、みごとに、「女性にとってもっとも大切なことを二つ挙げるとすると、それは「安全」と「清潔」であると、明確に書いていある。
20年ほど前から、「消除脱防」(「少女脱帽」の洒落)と言われてきた(一橋大学の故・田内幸一教授が好きなネタだった)。日本人は、基本的に「女性的な国民」だということが理解できる。パコさんは、日本が大好きだろう。清潔で安全な国は栄える!
本書全体を貫いている面白い表現があった。女性が好むコンセプトは、ライト(軽い)、ブライト(明るい)、ホワイト(白い)である。そういえば、世の中全体もこの傾向に変わりつつある。
ダイエット志向、健康志向、女性趣味(世界を席巻するKAWAII)。その背後にあるのは、やはり、女性の社会進出ではないかと思う。
ビジネスパーソンとなった女性は、街中のレストランでひとり食事をするようになる(日本では、たとえば、「大戸屋」が流行っている理由)。周囲の女性なども、長期の出張旅行などを敢行するので、女性に優しいビジネスホテル(今年度、JCSIでビジネスホテル部門第一位の「リッチモンドホテル」など)が成功している。
ホームセンターも、カジノ(日本ではパチンコ店)も、女性にやさしい店作りをしなければ、もはや生き残れない。だから、カインズホームでは、法政大学の小川ゼミと共同で、「女性向けのカー用品売り場」を企画開発している。
先日、「府中競馬場が素敵!」と、わがゼミの女子が言っていた。たぶん、わたしが知っている、一時の馬券と競馬新聞が舞い散る汚い場所とは、競馬場がサヨナラをしているのだろう。
米国の小売りサービス業の現場を歩いて観察したのが、本書である。日本の現状と比べてみると、おもしろく読める。いつもながら、アンダーヒル氏の着眼点と観察力には脱帽である。わたしのフィールドワーク(現場観察)の原点である。