17年ぶりに改訂を行った『ブランド戦略の実際』の最終校正作業が終わりました。予定通りに、10月14日に、第二版が刊行されます。本日のブログでは、初版の「まえがき」の続き「改訂にあたって」と「目次」をアップします。3冊の校正作業がすべて完了しました。
改訂にあたって
一七年ぶりに、本書を改訂することになりました。この間、ブランド論の理論的な支柱をうち立てた元カリフォルニア大学のアーカー教授は、五冊の本を著しています。アーカー教授の共著者だったケラー教授や、今回の改訂版にも登場するファクハー教授の著書など、世界的に「ブランド論ブーム」が続いています。
日本でも、筆者が日経文庫で本書を著してから一五年の間に、理論書がおよそ二〇冊、ビジネス書が約一〇〇冊、刊行されています。しかし、世の中に出ていく新製品と同様に、ほとんどの書籍はごく短命に終わっています。一五年を経過したいまでも、大手書店で入手可能な「ロングセラー」のブランド本は、一〇冊以下に絞られてきます。
おかげさまで、本書はその中の一冊に入っており、ビジネス書コーナーの定番品として位置づけられています。第一版は、累積で約四万人の方にご購入いただきました。しかし、取り上げているケースがさすがに古くなってきました。会社名やブランド名が変わったり、買収や合併によってもはや存在しないブランドもあります。
本書の第一版が刊行された翌年の一九九五年に、インターネットの普及が始まりました。その後、とくにネット関連企業やサービス会社が積極的にブランディングに取り組んでいます。また、地域活性化に「場所のブランド化」の概念を応用する組織が出現したり、国際マーケティングの分野では、国境を超えたブランドの移転が盛んに行われています。グローバリゼーションは、ブランドやマーケティングの移転によって実践されています。
第二版では、そうした時代の変化に対応して、およそ半分の事例を書き直しました。とくに、コラム(COFFEE BREAK)は、ほぼ全面的に書き改めています。海外の事例を少なくして、日本企業の実践を紹介するようにしたことも特徴です。第一版と比較すると、流通サービス業の最新のケースが増えています。第一版をお買い求めいただいた読者でも、新刊本を読む気持ちで本書を手に取っていただけると思います。
新版への改訂にあたっては、多くの企業の方からご協力をいただきました。逐一お名前をあげることができませんが、本書は、ご協力いただいた日本の代表的なメーカー、流通サービス業のブランド・マネジャーの実践を反映した内容になっているはずです。
最後に、新しい事例と内外のブランドに関する情報を検索収集してくれたリサーチアシスタントの青木恭子さんと、日本経済新聞出版社の堀口祐介氏に感謝します。
二〇一一年九月
小川孔輔
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もくじ
[Ⅰ] ブランドとは
1―ブランドの起源と歴史
(1) ブランドという言葉の由来
(2) 近代的なブランドの概念
(3) ブランド・マネジメントの現代的な意義
2―消費者とブランド
(1) 消費者にとってのブランド価値
(2) ブランド知名
(3) ブランド・イメージ
(4) 行動データによるブランド価値の測定
3―流通業者とブランド
(1) ナショナル・ブランドとプライベート・ブランド
(2) ブランド・バトル
(3) 無印良品の開発:ライフスタイルの提案
(4) PB商品開発の新しい流れ
[Ⅱ] ブランド・イメージ
1―ブランド名
(1) 企業ブランドと個別ブランド
(2) ブランドの情報コード
(3) ブランドの階層性
2―ブランドからの連想
(1) 製品カテゴリー
(2) 使用状況と製品属性
(3) 国と文化
(4) 使用者とライフスタイル
(5) イメージの慣性
3―ブランド・イメージの活用
(1) ブランド活用コンパス
(2) 下位ブランド化戦略
(3) 超ブランド化戦略
(4) ブランド結束戦略
(5) ブランド架橋戦略
[Ⅲ]ブランド戦略の実際
1―新ブランドの創造
(1) 革新的な製品の誕生
(2) 差別化のポイント
(3) シーズとニーズの橋渡し
(4) アイデア創出から市場導入まで
2―ブランドのポジショニング
(1) ポジショニング
(2) 先駆者利益
(3) 市場のすき間をさがす
(4) 新しい競争の軸をさがす
(5) 競争相手のリポジショニング
3―ブランド・マーケティング戦略
(1) マーケティング・ミックス
(2) プレミアム・ブランド
(3) 低価格ブランド
(4) 流通チャネル
(5) ターゲット・セグメンテーション
[Ⅳ]ブランド・マネジメント
1―ネーミング
(1) ブランド名の変更――米国日産自動車のケース
(2) CI活動とブランド名
(3) ブランドネーム・スペクトラム
(4) ネーミング管理システム
2―シンボルのマネジメント
(1) ロゴと商標
(2) 商標の役割
(3) パッケージ・デザイン
3―ブランドの維持と管理
(1) ブランド・ロイヤリティの管理
(2) ブランドスイッチ
(3) カテゴリー・マネジメント
4―ライフサイクル・マネジメント
(1) ブランドの加齢効果
(2) モデル・ライフサイクルの管理
(3) ブランドの再活性化の事例
[Ⅴ]サービスのブランディング
1―サービス業のブランド戦略
(1) サービスの二分類
(2) サービスの特殊性
(3) サービス・マーケティングの7P
2―サービスのブランド管理
(1) サービスの有形化戦略
(2) サービスのトライアングル
(3) 参加者のコントロール
(4) 差別価格の設定
(5) 柔軟なサービス対応
3―フランチャイジング
(1) フランチャイズ契約
(2) フランチャイズ・ビジネス
(3) サービス・ロジスティクス
[Ⅵ]企業経営とブランド
1― 事業ドメインとブランド戦略――「ワタミ」ブランドの変遷
(1) ワタミ創業のころ――外食産業を事業領域として選ぶ
(2) オリジナル業態の開発:居食屋「和民」への転換
(3) ワタミの事業多角化――二つの道程
2―ブランド価値と買収
(1) 企業買収とブランドの売買
(2) ブランドの市場価値
(3) インターブランドの方法
(4) のれん代――米国のケース
3―日本的なブランド管理とブランドの海外移転
(1) 企業ブランド社会
(2) 企業ブランド経営
(3) ライセンシングとブランドの移転
4―中小企業のブランド戦略
(1) 中小企業にとってのブランド経営
(2) 中小企業のブランド価値経営
(3) 中小企業にとってのブランド管理――三つのポイント 205
(4) ネット時代のブランド経営
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