書評: 原田保・三浦俊彦編著(2011)『地域ブランドのコンテキストデザイン』同文館出版(★★★)

 先週から読んでいる地域ブランド本のうち、最初の一冊である。著者の三浦さんからは、しばしばご著書を送っていただく。一昨年は、国際マーケティングの著書が、拙著『マーケティング入門』とほぼ同時期に出版された。今回も、本書が『しまむらとヤオコー』と同時刊行になっている。


本書のアイデアの源本を読んでいないので、この書評がミスリーディングにならないとよいがと思う。もしかすると、昨年度に出版された原田・三浦編著『ブランドデザイン戦略:コンテクスト転換の事例とモデル』芙蓉書房出版が、地域ブランドを扱った本書の元ネタなのかもしれない。
 しかしながら、いまは手元に、「ブランドデザイン戦略」がないので、それとは独立したものとして書評する。

 まずは、本書が優れているところを紹介したい。
 全体が二部構成になっている。第一部の「戦略論」と第二部の「事例編」である。戦略論の枠組みがすばらしい。地域ブランドを扱ったモデルとしては、いままでで一番に切れ味が鋭い。
 第一部のサブタイトルが、「括りと語りとつなぎのコンテクストデザイン論」である。第一章で、地域ブランドのデザインフレームでは、ゾーンデザイン、エピソードメイク、アクターズネットワークのトライアングルを扱っている。
 ゾーンデザインでは、ブランドの存在する地理的な「括り」(ゾーニング:対象地域の画定)をコンセプト(提供価値の画定)と同時に決定する。要するに、対象とする場とブランドの意味内容を同時に決めるという立場である。
 エピソードメイクは、ブランド概念を、消費者行動論でいう「意味記憶」と「エピソード記憶」に関連付けることである。とくに後者を重要と考えているらしい。地域(場所)での体験を、ブランドの記憶に残すことを主張している。
 最後のアクターズネットワークとは、ブランディングを担当する組織のことである。ブランドを作る主体とその運営が大切であるといくことを言っている。リーダーシップとネットワークで、ブランド組織を代置している。
 
 事例編は、上の枠組みから、6つの地域(ゾーン)の括りごとに、モノ語りコンセプト(商品、名所、施設の3つ)+コト語りコンセプト(行事、生活、歴史の3つ)で掛け合わせて、全国の36の事例を取り上げている。それぞれが、「観光ガイドブック」になっている。
 というわけで、ここからは厳しい評価になる。20ページ強で展開されている「地域ブランド戦略論」は、事例編では完全に消化不良に陥っている。せっかくの枠組みが台無しである。その理由は、6×6の事例を、ぞれぞれの共著者が等分に分担執筆したからである。
 ひとつの事例に、6ページはもともと薄すぎる。わたしが編者ならば、事例は20個に抑える。それそれに、10~15ページを割くべきである。共通の枠組みで、共通のフォーマットを守ろうとするあまり、どの事例も分析がひどく浅い。観光ガイドブックといったのは、かなりの程度皮肉である。
 枠組みが魅力的なのに、どうして事例がつまらないのかの理由を思いついた。それは、どの事例も、外部者の観点から書かれていることである。地域ブランドを実際に手がけているのであれば、枠組み(パーツ)に濃淡があってしかるべきである。そして、フレームにはない特殊な要因が登場してもおかしくない。
 それが書かれていないのは、地域ブランドの経営コンサルティングの予備調査だからなのだろう。総合研究所が、コンペのプレゼンテーションで利用する資料のような印象を、全編から受けてしまうのだ。

 そこで、ご提案である。同じ枠組みを使って、本当のリアルなブランディングの事例を取り上げてほしい。枠組みは素晴らしいのだから、リアリティがそこにあれば、読者をもっと説得できるのではないだろうか。共編著には、是非ともチャレンジしていただきたい。
 そうでもしないと、「研究者がきれいな枠組みを作ってみました」で終わってしまう。現場は、つぎのような問題で、苦しみもがいているはずである。そのための理論とケースがほしいのである。
 
(1)ゾーニングを決定する際、地域の利害関係者のぶつかり合いをどのように解決してあげるのか。(2)意味記憶させるために、どのようなブランドコミュニケーションの手法が使えるのか。メディア戦略とネットの活用、地域の店舗や施設のデザインはどうあるべきか。
(3)地域ブランドが活性化できるための組織はどのようなものか。投資主体と収益の持ち出しはどのように解決されるのか。

 以上は、類書の中にも、残念ながら、その解決法は見当たらない難題ではある。