【書評】森岡毅(2016)『USJを劇的に変えた、たったひとつの考え方』角川書店(★★★★)

 副題が、成功を引き寄せるマーケティング入門。USJは、『新潮45』でTDRの記事を書くために遊びに行った。何でもありの遊園地(コンセプトに一貫性がない)で、なんでも高い!それでも客は減らない。だから、このパークの指揮官はきわめて有能なのだろうと思った。

 

 「マーケティング入門」とサブタイトルにあるように、この本は、マーケターになりたいひとのための入門書である。USJ成功の秘密を知るには、前著の方(『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』角川書店)がより参考になったのだろう。その点からいえば、TDRとの比較で本書を読んだわたしは、選書をまちがってしまったかもしれない。

 率直に言えば、マーケティングの実務的なテキストとしてはやや中途半端である。概念説明もあまり体系的ではないし、USJの取り上げかたも、あまりこなれているとはいえない。しかし、業績不振のUSJ事業を立て直す際の着眼点と、問題点をシンプルに整理する能力と課題解決の実行力には脱帽である。

 したがって、実践的にマーケティングを遂行させるマネジャーとしての森岡氏の腕力は、誰が見ても「A+評価」といえるだろう。立派な業績である。

 

 全体は、3つのパーツから構成されている。1.USJについて、2.マーケティング入門、3.ビジネスマン(マーケター)としてのキャリア形成論。

 第1章の「USJの成功の秘密はマーケティングにあり」は、V字回復にあたって著者が考えた「常識」の仮説検証のプロセスが書かれている。USJの躓きを分析した著者が、マーケティングの問題点として整理したのが、(1)ターゲット層の幅(狭すぎる=「映画ファン」→ファミリーにフォーカス)、(2)テレビCMの質(二級品 → 高いブランド・イメージの構築)、(3)チケットの値上げ(TDRの値段に追随→独自に値上げ)。

 この着眼点はすばらしいと思う。実際にUSJは成功している。しかしながら、個人的な考えを述べると、三番目(チケットの連続的な値上げ)だけは、元日本マクドナルドの原田社長が躓いたポイントでもある。ブランド価値を高めてつぎに値上げをしていく。いつか限界点が来る。そろそろ来ているのかもしれない。CSの停滞にそれが表れはじめている。

 

 第2章「日本のほとんどの企業はマーケティングができていない」から第5章「マーケティング・フレームを学ぼう」までが、「マーケティング入門」にあたる。正直に言うと、この部分では先を読んでいくのがつらくなってしまった。いったん中断。

 第6章「マーケティングが日本を救う」から第9章「未来のマーケターの皆さんへ」は、キャリア形成論である。森岡さんご自分が、どのようにマーケターとして生きてきたのか。そのときの感じ方、考え方が述べられている。このへんは、就活を控えている学生たちにとても参考になるのではないだろうか。

 本書は、マーケティングの体系的なテキストとしては欠点も多いが(そこは狙っていない)、マーケティングを実践するときには役に立つのではないだろうか?たぶん、マーケティングの入門書を併読すると、本書の良さが鮮明になるだろう。若い学生やビジネスマンにとって、経営学(戦略論)やマーケティングを勉強するきっかけになることを期待したい。